□「最近どうも仕事が思うように進まない」とある副社長が発言している。彼は椅子の背に体をもたせかけながら、全く浮かぬ顔をしている。「私が達成しなければならない仕事にどうしても興味がわかない。もっとばりばり仕事をかたづけなければならないこともよく分かっている。また、かたづけなければならない仕事が山ほどあることも理解している。会社が私を呼んでこの職につけたのも上記の理由からだ。しかしどうにも仕事が思うように進まないのだ」

 このコメントを述べた18ヵ月前に、この副社長は系列会社から本社へ転勤してきた。彼の新しい任務は、組織再編成が行なわれたために混乱に陥っているコントロール・システムを常軌に戻すことにあった。

 しかしこの副社長が本社に到着するやいなや、トップ経営者は、その組織再編成の調整役としてのスタッフ職にこの人物を起用することに決定した。彼自身はラインの重役と特別な利害関係をもっていなかったので、ライン重役と最高経営責任者の双方にインタビューし、相談にあずかるスタッフ職をたったひとりで担うこととなった。さらにトップ経営者が、彼を信頼に値する人物と評価したので、彼の助言にはトップ層も十分に耳を傾けることとなった。

 しかし彼の職務は困難をきわめた。長時間働き、さらに対立する利害関係の間をぬって綱渡りをする絶え間のない緊張が彼を極度に疲労させた。その上、この職務は、改善を必要としているコントロール・システムに彼が取り組むことを不可能とした。さらに悪いことに、子供の学校の学期が終わるまでの6ヵ月間は家族が新任地へ移れなかったために、彼自身が週末に約800マイル離れたわが家に行ったり来たりすることとなった。

 この職務は彼にとって望まざる職務であり、つねに彼を圧迫し続けたが、同時に彼の能力に信頼を寄せるトップ経営者を助けるのに重要な任務であった。この望まざる職務を遂行しようと努力を続けた結果、彼は孤独、悩み、重荷を味わうこととなった。最近になりやっとこの職務も終わりに近づいたが、今や彼本来の職務に戻ることが心理的に不可能となっている。すなわち、彼は“燃え尽きて”しまったのである。

 一般的に発見されるストレスと同様に、燃え尽き現象も経営者、管理者層に多く発生する。この現象は現実にはさまざまの形で現われ、また個人によって程度の差はあるものの、そこには共通に発見される特徴が存在する。例えば、次の例に見られるように、登場人物は変わってもそこに含まれる問題の内容は前例と同じである。