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ある日、私はダラス空港で、長身で立派な身なりの、あかぬけした男たちを見た。彼らは大型の、まったくよごれのついていないステットソンのカウボーイハットをかぶっていた。その男たちのうちの1人のそばを通りすぎようとしたとき、私は色あせたブルージーンズをはいている日焼けした中年男が2人、すぐ近くに立っていることに気づいた。この2人の男は、くだんの男をためつすがめつ眺めまわしていたが、ひそかに一方が他方の男にささやいたものだ。「立派な帽子に牛の姿は見えずか」。
これと同様なことが、アメリカ産業において従業員管理の改善に費やされている膨大な労力についてもいえるのである。第二次大戦後、“人間関係”、“人事管理”、“労使関係”と呼び、現在では“人的資源管理”といわれるものに企業は数百万ドルにも及ぶ資金を投入して、生産的で忠実かつ意欲的な従業員を育てようとしてきた。
まず、ホーソン実験によって開眼した大学の研究者たちが、こういった効果的な従業員管理法の運動を先導した。今では、熱心なコンサルタントや、企業内専門家たちが、この活動を盛りあげている。フォーチュン誌は、人事管理者のことを“会社の新しいヒーロー”と書いている。図書館の本棚は従業員管理の本であふれており、さらに毎年100冊ほどに及ぶ新刊が出版されている。200件に及ぶ研究調査が労働生活の質(QWL)の向上をはかるべく進められており、全国的に有名な3つの機関が生産性とQWLの向上プログラムについての特許(実施権)をもっている。
ホーソン実験以来、従業員問題の解決策とその実行計画という波は産業界を洗い、ひっかきまわした。一種の物狂いにとりつかれたように、管理者たちは、投資をし続けた。対象となったのは管理者訓練、組織行動、対人行動、Tグループ、感受性訓練、従業員の態度調査、職務充実、変動給付、付加給付の拡充、すなわち大型年金、保険金給付、休日の増加、労働日数の減少、週4日制、コミュニケーションの改善などであった。そして現在、企業は人的資源部門を設置して“労働倫理”の回復を試みている。立派な計画である。しかしそれだけの効果はどこに現われているのだろうか。
生産性には現われていない。最近の数字によると、アメリカの労働者の生産性は低下している。
ストライキによる休業の減少にも現われていない。