経済上の意思決定のなかでも、現在の消費と将来の消費のどちらをとるかの選択ほど難しいものはない。将来にあまり信頼がおけないために、借金をしてでも現在の楽しみを求める人もあるし、そんな、“月賦で海外旅行を”というようなやり方に慎重な、少しばかり視野の長い人もある。こうした人たちは、借金の返済が遠い将来の場合はまだよいが、近づいてくると、まったくやりきれなく感じるのではないかと取り越し苦労をするのである。

 工場や設備への投資は、このような将来についての視野の長さや受け取り方の違いに特に敏感に左右されるものである。おまけに、意思決定に当たって、倫理的な感覚が入ってくるので、もっと決断が難しくなる。それは、耐久資本財に対する投資に当たっては、労働者、経営者および株主の将来を思う義務感が重要になるからである。

 今やアメリカのほとんどの企業では、資本投資検討の過程で、高度に手のこんだ分析の手法を用いることが支配的になっている。重要な投資の意思決定に当たって、その純現在価値や内部利益率を慎重に計算してみない経営者はまれである。これらの手法が出まわるようになって久しいが、現在、経営者は合理的な意思決定の助けとして、これらをますます多く使うようになってきている。1971年に行なった大規模製造業184社についてのある調査によれば、57%が投資プロジェクトの評価のために割引手法を用いていた。しかし、1959年には19%しか同じ手法を用いていない。1975年の主要33社のある調査では、これがもっと手広く使われており、94%にも達している[原注1]

 投資の意思決定において、このような手法が幅広く用いられるようになるにつれ、アメリカにおける資本投資やR&Dへの投資の成長が鈍るようになった。われわれは、この現象が単なる偶然以上のものだと思っている。割引法が投資意欲減退への原因となっており、それは次の2つの理由によるものと考える。1)この方法はいつも、過去と現在の経済環境についての誤った認識のうえに立っており、2)理論の適用の仕方で重大な誤りを犯しているため、投資について歪んだ結論に導くというものである。簡単にいってしまえば、経営者が将来についてキャッシュ・フローの割引法という、ちょうど望遠鏡を逆さにみるようなものの見方をするのは、自分の会社の将来を極端にごまかして綾小化して見ているということである。

再投資の減退

 最近の民間部門における資本的支出とR&D投資のローデータのみで見れば、これらがゆるやかながら着実に増加していることがわかる。しかし、これらをインフレで修正し、GNPの変化や労働力の大きさの変化について調整すると話は変わってくる。1950年代から総事業投資の対GNP比率は実質ではほぼ一定であったが、一労働時間当たりの資本支出と新規純投資額のGNP比は、いずれも過去10年の間に減少した。

 例えば、1948年から1973年までの間に資本設備純簿価の実働労働時間数に対する割合は、年3%ずつ増大している。しかし、その後は、その半分の率でしか増大していない。さらに純資本財の雇用労働者数(パートタイマーをフルタイムに調整し、したがって平均労働者の1週間当たり労働時間の変化を調整した数字)に対する割合の成長率は、1973年以降、より大幅に減少していることさえ示している。