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イノベーションの多くがキャッシュ・トラップに陥っている
いまから30年ほど前、ボストンコンサルティンググループの創業者、ブルース・ヘンダーソンは、経営者に次のように警告した。
「ほとんどの企業で、商品の大半が『キャッシュ・トラップ』(利益を生み出すはずが損失を生み出している状況)となっている。それらの商品はいつまで経っても、生み出す利益を上回る金を使い続けるだろう」
その後もヘンダーソンが懸念したとおりの状況が続いている。企業にはイノベーション信仰が蔓延しているが、新商品の多くは実質的には利益を生み出していない。複数の調査結果によると、新商品10種類のうち5種類が、また多い時には何と9種類が、財務上失敗に終わっている。
真に革新的な商品でさえ、開発費を回収できるほどの利益を上げられない場合が多い。たとえば、アップルコンピュータは大幅な赤字が続き、2000年7月に発表した斬新な〈パワーマックG4キューブ〉の製造を1年を待たずに中止した。
実際、多くの企業では、一握りの商品が利益の大半を稼ぎ出している。2002年のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の場合、250あまりのブランドのうち、わずか12ブランドが売上高の半分を占めており、純利益ではその割合はさらに高い。
にもかかわらずほとんどの企業が、創造性さえ育めば利益は生まれると考えている。1990年代のイノベーション・ブームの頃は、多数の企業が新規事業インキュベーター(育成組織)やベンチャー・キャピタル・ファンドを設立し、社内起業家の育成を図った。アイデアが多ければ多いほど、イノベーション投資から生み出される利益も増えるものと考え、創造性を高めるための新しい方法を模索するのに懸命だった。
しかし、いかに多くの優れたアイデアや画期的な商品を生み出せたにしても、それだけでは成功は長続きしない。ハーバード・ビジネススクール名誉教授のセオドア・レビットは、63年にHBRに寄稿した"Creativity Is Not Enough"(邦訳「アイデアマンの大罪」DHBR2003年7月号)のなかで次のように述べている。
「ブレーン・ストーミングでは経験の浅い10人ほどの人々を一堂に集めて、新鮮で刺激的なアイデアが飛び出すのを待つわけだが、これなどはアイデアがけっして稀少ではないという事実を浮き彫りにしている」
事実、単に革新的であることと、革新的な企業はまったく違う。前者は数多くのアイデアを輩出するが、後者は大きな利益を創造するのである。