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事業環境がますます流動的かつ不安定になっている今日、従来の計画のあり方で満足だといえる企業は少ないだろう。伝統的なプラニングは予測に基づいていたが、これは比較的安定していた1950年代と60年代には適当にうまく機能した。しかし、1970年代の初めごろから、予測誤差がしだいに目につくようになり、時には信じられないような前代未聞の誤差が出るようになった。
予測は常に当たらないというものではない。むしろ、どちらかといえば、ある幅のなかでは正確に当たりえるものだ。そして、それがために予測は極めて危険なのである。通常、予測は明日の世界は今日とだいたい同じだろうという前提のもとに作成される。世の中はいつも変わるわけではないから、それでうまくいく場合が多い。ところが、いずれ、最も肝心な時に予測が役に立たない時がくる。今までの戦略をすべて廃物と化すような事業環境の大変動を予測する際には、とくにそうである。(下記の「最も打撃が大きい時に当たらない」を参照)。
予測がいかに当てにならないことがあるか、ほとんどの管理者は経験上、身にしみて知っている。この点については、おそらく大方の賛同を得られるだろう。
私の論点――これについて大方の賛同を得るというわけにはいかないかもしれないが――は、こうである。この問題の解決法は、予測技法を磨いたり、あるいはもっと多数のまたはより優れた予測者を採用することによって、よりよい予測を求めることではない。あまりに多くの要因が作用しあって、唯一正しい予測値を求めることは不可能である。未来にはもはや連続性はない。それは動く標的になったのだ。過去の行動から唯一の“正しい”予測を推論することはできないのである。
それより、不確実性を前提とし、その理解に努め、それをわれわれの推論の一部とするほうが適切だと信ずる。今日の不確実性は、まずまず予測可能な状況が時たま一時的に軌道をはずれる、という程度のものではない。不確実性が事業環境の基本的構造となっているのだ。未来を考え、未来のために計画する技法は、事業環境の変化に応じて適切に対応できなければならない。
ロイヤル・ダッチ・シェルは、意思決定シナリオが、そのような技法だと信じている。シェルの前グループ常務のアンドレ・ベナールは、「みなに、いやでも未来について考えさせるという点で、以前の予測技法よりシナリオ技法のほうが、はるかに有効であることを、われわれは経験から学んだ」と述べている[原注1]。
戦略的プラナーのなかには、シナリオについては何もかも知っている、試してみたが好きになれない、という人が多いかもしれない。私は彼らの批判に対し、2つの点で反論したい。
□ ほとんどのシナリオは、明らかに不確実な状況について、いくつかのケースを単に数量で表現しているにすぎない(例えば、石油価格は1995年には1バーレル当たり20ドルか40ドルになるだろう)。そのようなシナリオは意思決定者には、あまり役立たない。われわれは、それを“第Ⅰ世代”シナリオと呼んでいる。シェルの意思決定シナリオは、これから説明するとおり、それとはまったく違ったものである。