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アメリカの製造企業は、生産性の向上によって、かつての競争力をとり戻そうとほとんど英雄的ともいえる努力を続けてきたが、その成果は、まったく期待はずれであった。成果が上がらないだけならまだしも、これらの努力が逆説的な結果を生じており、生産性向上に努力すればするほど、その目標が遠のいていくという結果になっているのである。
1970年代の後半、アメリカの数多くの業界は国際市場において、そのシェアを大きく低下させたが、その後、アメリカの製造業事業者は自社の生産機能を生き返えらせる計画を精力的に導入してきた。過去75年間にわたって着実に達成されてきた生産性向上の成果を復活させようとするこれらの活動は、異常ともいえるほどであった(労働統計局の定義によると、生産性とは生産された財の価値をそれに要した労働量で割ったものである。本稿が用いる“生産性”もこの定義に従い、生産従業員の労働の成果を示す値と見なす)。
生産性の測定や分析、あるいは産出/投入の比率を高める活動を実施していない企業は、まずないだろう。しかし全体としてみると、それらの活動の成果は、わびしいかぎりであった。
1978年から82年の期間でのアメリカの製造業における生産性は、実質的には横ばいであった。後半の3年間は経済全体が上向きになったため生産性も前半よりはよかったが、それでもそれ以前の期間、戦後の上向き期と比べると向上率は25%も低かった。
ここで最近、私が調査におもむいたXYZ社の事例をみてみよう。この会社には巨大な工場があるが、そこではきちんと作り上げられた生産性向上計画に従って優秀な担当者が3年まえから生産性向上活動を続けていた。その活動の目標は、生産性を大幅に向上させて、競争相手よりも30%も高いコストを競争相手の水準にまで引き下げることであった。
この計画の内容は次のとおりである。まず生産性向上担当マネジャーの任命、部門ごとの生産性向上委員会の設置、IE専門家の50%増員、作業効率を高め、むだをはぶき作業を簡素化するための作業分析の実施、“より効率よく、しかも重労働にならない”ように作業するための従業員の再教育、作業の流れと材料の受渡しの円滑化、時代遅れの機械器具の買替え、作業時間短縮のための工具の再整備、作業標準の強化、コンピュータを利用した生産管理システムの導入、作業の簡素化のための職場責任者の訓練、整理整頓と清潔の励行、作業別・従業員別・部門別の作業結果が日単位で得られるコンピュータ化された日別の作業計画書の作成である。
これほどの活動が行なわれ、製造部門のマネジャーの意欲も大いに高まったにもかかわらず、この計画からは、ほとんど何の成果も得られなかった。3年間で生産性はようやく7%向上したものの、収益性はほとんど変わらずマーケットシェアの低下はとまっていない。あるエグゼクティブは次のように述懐している。
「工場を清潔にし作業効率を高めるために必要なトップの支援と経営資源は、もう十分すぎるほどもらっている。しかし身を粉にして3年間働いてきたのに3年前よりも競争上の地位が低下したなんて、まったく残念きわまりない。いくらやっても、これ以上よくなる見込みがなさそうなのに、いつまでこんなに働き続けなければならないのだろうか」