注目を引くための戦いは終わった。太鼓をたたいて存在を主張したのも、はるか昔のことだ。今では製造こそが競争力を生み出すもっとも重要な部門になっていることは、誰でも知っている。アメリカの製造業が、巧みなマーケティングだけで、品質をなおざりにしたり、手抜き配送をしながら、競争相手に勝てると本気で考えている人は、もはやいなくなった。

 現在では実務レベルでの具体的な行動、例えば生産設備の更新、生産技術の近代化、作業方法の調整、完全な情報システムと管理システムの構築などが、必要になっている。

 しかし、経営者がこれらの行動を起こそうとすると、たちまち障害にぶつかってしまう。それは、各工場の業績を判定したり、各生産部門の全体的な業績を比較するための適切な基準がないからである。もちろん、従来からの原価計算による数字を利用することはできるが、そういった数字は本当に知りたい情報を伝えてくれないことが多い。さらに問題なのは、経営者が自社のシステムに存在する混乱を減らし、組織としての習熟効果を高めることによって会社に対し大きな貢献をしても、原価計算の結果には、(たとえ、それが最良の数字であったとしても)それが十分反映されないという点である。

 コスト面で競争相手に大きな後れをとっていた、あるアメリカの自動車メーカーでの事例を見てみよう。この会社は、主要な競争相手の生産方式を調査するために自社内にグループを作った。'そして、このグループは大量の調査データを報告したが、この活動の責任者は、なんとなく不安であった。というのは、この調査グループが瑣末な点にこだわるという泥沼にはまりこんでいるのではないか、そして管理方式以外の別の要素、例えば設備機械の古さや工場の立地といった要素が工場の業績の主な決め手になっているのではないか、と恐れていたからである。しかし、それをどうすれば立証できるだろうか。

 同様に、ある特殊化学製品メーカーの製造担当副社長も、工場管理者の業績評価にあたって標準原価どおりのコストを維持しているかどうかに力点をおく自社の方式に不安感を抱いていた。標準原価と合っているかどうかに力点をおく評価方式では、工場間の業績比較が難しいからである。さらに面倒なことには、この方式を採用しているかぎり、生産にかかわるさまざまな要因間でのトレードオフ関係の把握や主な機械設備あるいは材料の果たす役割の検討が簡単にはできなかった。では、どうなふうにやればよいのだろうか。

 また、アメリカ国内に5つの工場をもつある紙製品メーカーは、同じ部門なのに工場間で見ると、その習熟度の水準に大きな差があることに気づいた。その部門は似たような生産設備と材料を使って、ほとんど同じ製品を作っているのに、数年の間に、それらの業績のあいだには大きな差が生じていたのである。なぜ、このような差が生じたのであろうか。

 われわれの主張は単純である。すなわち製造部門の業績向上に必要な対策を経営者がさぐり当てるためには、まず、そのまえになぜ工場間の生産性に差があるのか、その理由を確かめる信頼できる方法をもたねばならない、ということである。それに加えて、こういった工場間の差を見つけ出し、その大きさを測定するための信頼のおけるものさしと、どうすれば工場の業績を向上させ、それを続けさせるかを検討するためのフレームワークも必要である。しかし、これは簡単な仕事ではない。

 これらの課題解決のために、われわれは、3つの企業の12の工場について数年間にわたる継続調査を実施した(調査方法の詳細については末尾を参照)。われわれの調査の目的は、生産性の向上に影響をおよぼす要因をミクロレベルで明らかにすることであった。