サマリー:超高齢化社会において人々のウェルビーイングに関する諸課題を解決するのは、企業単独では難しく、循環型エコシステムの形成が必要となる。その先進事例、エコシステム形成のポイントと対策を紹介する。

世界では、医療・ヘルスケアに関わる循環型エコシステムの形成が、提携や買収などさまざまなインオーガニックなアプローチを通じて加速している。また、ヘルスケアソリューションのプラットフォーマーを企図するプレーヤーたちには、プラットフォーム自体の融合を図る様子がうかがえる。

医療・ヘルスケアに関わる課題は輻輳しており、企業が単独で取り組めるものではない。我が国において、ヘルスケアのイノベーションを加速するためにはどのような取り組みが必要となるのだろうか。デロイト トーマツ コンサルティングでライフサイエンス&ヘルスケアおよびM&A(合併・買収)の支援を担当する5人が共同執筆した本稿では、国内外の環境変化、先進的取り組み事例を解説するとともに、デロイト トーマツのアプローチと検討の視点を紹介する。

1.ヘルスケアを取り巻く環境の変化

①世界における課題先進国家「日本」

 超高齢化社会の到来、社会保障給付費の増加、就労人口の減少がドライバーとなり、いま何らかの手を打たなければ、日本はいずれ財政破綻を迎えるともいわれています。そのような事態に対応するために重要なのは、高齢者を含めた生活者の一人ひとりが1日でも長く健康な生活が送れるようにする、いわゆる「健康寿命の最大化」を図ることであるといわれています(*1)。

 そのような社会において、ヘルスケアが目指す「健康」の定義は、もはや単に「病気になっていない」、あるいは「病気が治癒した」状態を指すものではなくなるでしょう。生活者が1日でも長く、自分らしい社会活動を送るためには「肉体的・心理的・社会的・精神的・経済的に幸福であること」、すなわち「well-being」(ウェルビーイング)が常に満たされている状態であることが必要です(*2)。

 そして、我が国が経験する人口動態の変化に関連するこうした深刻な課題は、他の国々が未来に経験することでもあります。我が国が先頭を切って課題解決に向けた革新的な打ち手を創造することが、他国からも期待されているといえるでしょう。

②革新的技術の普及・発展

 ヘルスケア関連のデジタル技術は、近年目覚ましい発展を遂げています。各種デジタルデバイス、AI(人工知能)、ブロックチェーン、量子コンピューティングなどの最先端技術を活用したヘルスケアビジネスのイノベーションは、「デジタルヘルス」や「ヘルステック」などと総称されています(本稿では、「デジタルヘルステクノロジー」[DHT]*3を使用)。

 DHTは、医療画像診断AIや手術支援デバイスのような医療機関において使用される高度な診断・治療支援や電子カルテシステムなどの間接業務効率化のための仕組みに留まらず、心拍数などのバイタルデータが管理できるスマートウォッチのような、一般消費者が気軽に使える健康管理・増進のための製品やサービスを包括します。

2.循環型エコシステム(Connected Healthcare)

①エコシステムの形成と参入プレーヤーの多様化

 ヘルスケアの市場においては、データの結合と循環を企図して、さまざまな技術やプレーヤーのエコシステムが形成されることが予想されています(*4)。金融や不動産、自動車業界からウェルビーイングに関連するさまざまな企業の参入が予想され、今後、エコシステムの形成が加速度的に拡大する可能性があります。