たとえば、SOMPOホールディングスは、パランティア(Palantir)との提携により「リアルデータプラットフォーム」を構築しています。グループ戦略の核となる介護領域においては、介護事業を通じて取得した保険・介護・ヘルスケア分野におけるデータをパランティアのデータ統合技術を活用して分析し、介護事業者向けにデータ活用サービスやデジタル化支援を提供することで、介護人材の需給ギャップという社会課題の解決を目指しています。そして、その事業を加速させるために、大手介護システムベンダーのグループ化も進めています。

 また、米Amazon.com(アマゾン・ドットコム)は、2022年7月に39億ドルという巨額の資金を投じて会員制医療サービスのOne Medical(ワンメディカル)を買収することを発表。全米で約190カ所(発表時点)の診療所を運営し、対面とオンラインを組み合わせた診療を行う同社を傘下に収め、本格的に医療サービス事業を展開することを決めました。さらに同年11月には、アレルギーや皮膚炎など一般的な疾患についてオンライン診療を行う新サービス「Amazon Clinic」を立ち上げました。

 Amazonは、2020年から処方薬の調剤と患者への宅配を行うオンライン薬局「Amazon Pharmacy」も手掛けています。複数の事業ピースが組み合わさることで、Amazonの医療提供体制のカバレッジはシームレスなものとなっています。医療機関から患者宅への処方薬デリバリーのラストワンマイルは、2018年に買収したスタートアップ企業PillPack(ピルパック)のサービスと接続され、患者にとって普段のAmazonでの買い物と同様のシンプルな動線となっています。

 さらに同社は、ヘルスデータ取得に機能特化したウェアラブルデバイス「Amazon Halo」やB2C製品の販売を通して患者へのリーチを拡大し続けるとともに、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act:医療保険の携行性と責任に関する法律)準拠のデータレイクサービス「Amazon HealthLake」や、「ヘルス」に特化したクラウドビジネスとなる「AWS for Health」をローンチすることで、産業特化型のバーティカルなクラウド・トランスフォーメーションを牽引しています(*5)。 

②合従連衡の進行

 循環型エコシステムの形成の過程において、ヘルスケア産業は革新的企業の間での合従連衡を経験することになるでしょう。これは従来型のヘルスケア企業に留まらず、スタートアップ企業や異業種企業を巻き込んだものとなりそうです。単品のDHTで単一の市場やニーズを充足するだけでは、さまざまな顧客のニーズに応えるのは困難であることに世界は気づきつつあります。

 たとえば、2020年、米国では、Teladoc(テラドック)とLivongo(リボンゴ)の合併により、フルスタック型のバーチャルヘルス企業が誕生しました(*6)。バーチャルヘルスとは、バーチャル訪問、遠隔診療でのモニタリング、チャットボットといった遠隔での診察支援、およびアルゴリズム、アナリティクスといった診断支援技術を組み合わせたものです。

 バーチャルヘルスは、特に慢性疾患患者のケアに有効であると考えられており、たとえば、糖尿病患者のうちヘモグロビンA1c値が患者の目標に達していない場合には、その日のうちに内分泌専門医に患者の投薬計画を改善する方法を確認することが可能となります。今後は消費者体験、AI、データサイエンスを駆使して、患者のあらゆるヘルスケアニーズに合わせた、より包括的なカスタマイズが可能になると考えられています。

3.循環型エコシステム形成におけるインオーガニックアプローチ

 これまで見てきた通り、循環型エコシステムは我が国においても加速度的に拡大する可能性があり、待ったなしの状況であることから、“時間を買う”動きが必要となります。では、具体的にどのようなアプローチで臨むべきでしょうか。デロイト トーマツが考える、循環型エコシステムの形成においてとらえるべきポイントをご説明します。

①異業種参入を前提とした参入検討アプローチの変化

 異業種からの参入が前提となる循環型エコシステムにおいて、業界の境界線は曖昧となり、注視すべき競合のとらえ方に変化が表れています。特定業種に絞った分析は意味を成さず、より広範囲・業種横断での市場・競合分析が求められます。

 従来、対象を広げた膨大なデータ分析を人の手で行うことには限界がありました。ところが、近年のビッグデータ解析ツールの登場により、人では処理できないボリュームのさまざまな公開データを解析・可視化できるようになったことで、短時間での事業戦略分析が可能となってきています。

 たとえば、デロイト トーマツが2022年2月にリリースした、公開情報ビッグデータ解析による戦略策定支援ツール「Napier」(ネイピア)では、特許データのスコア化、独自アルゴリズムによる業界横断的な投資・出資関係の解析などにより、グローバルベンチマーク企業各社の戦略の方向性を瞬時に把握できます。

 Napierを利用することで仮説の精度はいっきに引き上げられ、「一定期間をかけてデータを収集した後、集めたデータをもとに仮説立案する」という長年のアプローチは一新されるでしょう。

 プレーヤーたちの動向を把握し、自社にて取り組むべき循環型エコシステム形成の方向性を定めた後、戦略の実行に向けて協業相手をリストアップする段階においても、ビッグデータ解析によってパートナリング候補の動向を知ることは有用です。なぜなら、すでに循環型エコシステムが一定程度構築されている企業については、もはやパートナリングの余地がない場合が多い一方、今後の方向性として自社と同様の志向を持つ企業については、サステナブルなビジネスモデル確立に向け、コンソーシアム形成なども視野に入れたパートナーとなりえるためです。