ほとんどの最高経営責任者は、自分の企業に対し、ただ1、2の側面だけでなくすべての面で、もっと競争力をつけたいと強く願っている。しかし抜群の競争実績を上げるという目標は、なかなかとらまえられない。達成する企業も少数あるにはあるが、ほとんどの企業が達成できない。

 競争力が抜群な企業は、どこが他の企業と違うのだろうか。基本的な違いは2つである。第1に、彼らはたゆまざる革新(イノベーシヨン)こそが企業生き残りの鍵であると理解している。たまに、1つか2つの分野で革新的であるだけでは話にならない。第2に、彼らは自分のなしうる最も強力な変革とは、現在の顧客及び潜在的な顧客にとって価値あるものを創出するような変革であることを知っている。その結果、何が起きるかといえば、競争力のある企業はそのすべての事業のあらゆる側面を、どうしたら変革できるかを常に模索している。そして、もしその方法が発見されると、その変革をどうしたら顧客がありがたがり、取り入れるようなメリットに具体化できるかを考える。

 リンカーン・エレクトリック社は以上の基本原則を理解し、それを何年にもわたって実践してきた。だからこそ同社は、毎年毎年より安い価格でよりよい製品を顧客に提供し続けているのだ。ところが、多くの人はリンカーン社がコスト削減に成功していることしか見ていない。彼らは、イノベーションをあまりにも狭義にしか考えていないのである。つまりホームランだけしか念頭になく、各選手が毎試合、毎イニング放っているすべてのヒットのことを考えないため、リンカーン社が偉大な革新的企業でもあるという事実を見逃している。

 リンカーン・エレクトリック社やその他の超優良企業は、イノベーションに対する見方がシステマチックである。彼らは、自社の競争優位性は生産、財務、流通及びその他すべての機能における着実な改善努力の上に組み立てられたものであり、単に販売やマーケティングや研究開発で大ヒットを放った結果ではないことを知っている。だから彼らは、コンスタントにヒットの打てる選手を確保しようとする。そしてそのような選手に対し必要な、すべての支援を与えられる組織をつくる。具体的にいうと次のとおりである。

■成績を少しでも向上させることを何よりも高く評価する企業風土を創出し、これを維持すること。

■革新的なアイデアを業務遂行のノルマ達成より上位に置けるような組織を構築すること。

■戦略的な焦点を明確に定義し、それにより市場で元が取れるような現実的な方法で、会社がその革新的努力を交通整理すること。

■どちらを向いて優れたアイデアを探せばよいか、そしてアイデアが出たとき、どうしてそれを実現させるかを知ること。