ジェスターサン 私は前に書いた2冊の本で、従来の仕事という境界線を踏み越えたところで何ができるのか、また、人と自動化を組み合わせたらどうなるのかについて深く探究し、新しい意思決定のフレームワークを提示しました。その思索を経て、人員不足にあえぐ組織が自動化や多様なリソースの活用でアジリティ(俊敏性)やレジリエンス(復元力)を身につければ、コロナや地政学リスクのような脅威にも対応できる力を備えることができるのではないかという思いで、今回の『仕事の未来×組織の未来』をまとめました。

田中 今回のパンデミックで、世界は意図せず働き方の未来を創出するまたとない機会を得ました。リモートワークへの移行はその典型です。いまもハイブリッドワークを模索し、最適解を探っている状態です。

 その中で、私はこの3年間、組織アドバイザーとして富士通に関わってきました。富士通では、いま自社のDX(デジタル・トランスフォーメーション)である「富士通トランスフォーメーション」(通称フジトラ)に全社で取り組んでいる真っ最中であり、パンデミックの中で、これまでの積み重ねから具体的な成果も見え始めています。ただ、富士通はIT企業だからDXがうまくいったわけではありません。

 たとえば書籍の冒頭では「看護師の仕事を自動化する」として、医療現場にロボットを導入することに触れています。看護師の職務をタスク分析し、「自動化によって仕事が補完され、看護師はより重要な業務に集中できるようになる」と説いています。この本の素晴らしいところは、業種や規模にかかわらず、誰もが働き方を変革する当事者であるという意識を持たせてくれることです。

仕事の未来×組織の未来 新しいワークOSが個人の能力を100%引き出す
ラヴィン・ジェスターサン/ジョン・W・ブードロー=著
マーサージャパン=訳 ダイヤモンド社 定価2420円(税込)

 ここであらためて本書の核となる「ワークOSの4つの原則」をご説明いただけますでしょうか。

ワークOSの4つの原則
浮かび上がる多様な労働形態

ジェスターサン この4つの原則は、日本企業の働き方にも大きな関連があります。1つ目は「現在の職務を前提とせず、仕事を分解して、達成すべきタスクを見る」というものです。外注するのか内製化するのかといった固定的な観点ではなく、既存の組織のあり方を超えた視点が必要です。

 2つ目は、「人間と機械を融合させる」ということです。これは、最初の項目をクリアしたうえで意識すべき原則です。あくまでテクノロジー頼みではなく、みずからの職務内容から融合の糸口を探っていくことが重要です。ポイントは、業務のどこに反復性の高いプロセスがあり、どこがルールベースの仕事に置き換えられるのかを特定することです。これによって人間が創意工夫すべきところと、機械学習に任せるところが明確になり、両者の組み合わせが見えてきます。本書では具体的な事例を交えて紹介しています。

 3つ目の原則は「あらゆる就労形態を考慮に入れる」ということです。これは、人と自動化の最適な組み合わせを考えることにもつながります。この人材にはどういう職務が合っているのか、この特定のスキルを持つ人材は、よりアジャイルな働き方が合っているのではないかといった新しい観点が生まれます。固定的な労働形態に縛られるのではなく、プロジェクトベース、アライアンスパートナーといった多様な労働形態を意識すべきです。