サマリー:効率化最優先で顧客接点に安易にデジタル技術を導入すると、顧客の“不”を増大させ、生涯顧客価値を損なう可能性がある。それを避けるには、あらためて人基点の顧客体験をデザインする必要がある。

「顧客基点から人基点への進化」――。この新たなテーマの下に、電通デジタルがクライアント企業への提供価値を磨き込んでいる。そこから生まれたCX(顧客体験)変革の次世代コンセプトが、「ヒューマナイズド デジタル エクスペリエンス」である。人の感情や行動にポジティブな変化を促すことによる新価値創造を目指す、同社の取り組みについて聞いた。

デジタルがもたらす痛みを人的資本との融合で解消する

 電通デジタルでは2023年1月、顧客基点での企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)実現をさらに強力に支援すべく、組織改革を行った。既存のトランスフォーメーション(TF)領域、クリエイティブ領域、メディアコミュニケーション領域に加え、デジタル技術に精通したプロフェッショナル人材を集結させた「テクノロジートランスフォーメーション領域」を新設。同時に、TF領域においてCXトランスフォーメーション部門、ビジネストランスフォーメーション(BX)部門に次ぐ3つ目の組織、「BIRD部門」を発足させた。BIRD部門は、人工知能(AI)やIoT、XR(クロスリアリティ)、Web3技術といった最新テクノロジーを駆使した事業創造や社会課題の解決を総合的に支援する。

「TF領域がDX支援をドメインとするのは従来通りですが、CXトランスフォーメーション部門とBX部門が企業課題を起点にCXや事業・企業の変革を支援するのに対し、BIRD部門は中長期的な社会トレンドに立脚した革新的な事業創造をサポートします。実際には、3つの部門がクロスファンクショナルに連携しながら、プロジェクトを推進していくことになります」。CXトランスフォーメーション部門部門長の桑山晃一氏はそう説明する。

電通デジタル
CXトランスフォーメーション部門
部門長
桑山晃一

 新組織体制への移行は、TF領域がミッションとしてきた「顧客価値創造型DX」の実行力をさらに高めるためでもある。「2023年は、『顧客基点から人基点への進化』をテーマに、クライアント企業への提供価値を磨き込んでいきます」(桑山氏)。

 具体的には、エンドユーザーのCXデザインだけでなく、エンドユーザーに価値を届けるクライアント企業の従業員をはじめとしたステークホルダーの体験も向上させることにより、顧客価値を総合的に高めていく。

「昨今、人的資本経営が大きなテーマになっていますが、最大の経営資源である“人”を基軸とした価値創造の重要性があらためて認識されてきたからだといえます。EX(従業員体験)とCXを総合的に高めていくことは、LTV(生涯顧客価値)を向上させるために今後ますます重要になります」と、BX部門ビジネスデザイン事業部事業部長の松井崇司氏は語る。