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デロイトとSAPジャパン(以下SAP)は、それぞれがスマートファクトリー、インダストリー4.0の実現を支援するイニシアティブをグローバルに展開している。その両社が、日米欧に構えているイノベーション創出拠点を中心に、グローバルな連携・協力体制を強化して、製造業の変革を支援していくことを決めた。
その狙いはどこにあるのか。国内外の製造業DX(デジタル・トランスフォーメーション)の現状を含めて、SAPの鈴木章二氏と髙橋正直氏、デロイト トーマツ コンサルティングの奥田伸二郎氏と芳賀圭吾氏に語ってもらった。
小さく始めて、小さく終わってしまっている
――日本政府が、ドイツの「インダストリー4.0」の日本版ともいえる「コネクテッド・インダストリーズ」を提唱したのは2017年のことでした。データを介して機械や技術、人などさまざまなものがつながることで、新たな付加価値創出と社会課題の解決を目指す産業のあり方を示したコンセプトですが、まだ本格的な変化が起きているとはいえない状況です。国内製造業のDXの状況を、どうご覧になっていますか。
芳賀 インダストリー4.0がキーワードとして一般化し、世界各国の製造業でDXへの取り組みが広がっています。国内製造業でも同様の流れが見られますが、データをつないで業務プロセスを効率化する、あるいは現場の自動化の延長としてIoTやAI(人工知能)を使うといった取り組みが中心です。
一方、製造業を取り巻く状況に目を向けると、カーボンニュートラルやESG(環境、社会、ガバナンス)、経済安全保障など取り組むべき課題が大きく広がっており、サプライチェーン全体の変革を迫られています。従来の延長で業務の効率化や現場の自動化を進めるだけでは、競争力は高まりません。
大きな環境変化に対して、自社のビジネスや組織をアジャイル(迅速、俊敏)に変革し、適応していくことが求められていますが、その点に関して言うと、日本の製造業の取り組みが本格化するのは、これからだと思います。
奥田 日本の製造業は現場の改善と、それを支える個別最適化された組織や仕組みで高品質な製品を生み出してきました。それによって国際競争力を確保してきた歴史がありますが、システムや意思決定プロセスも過度に部門最適化が進んでしまい、硬直化している面があります。
たとえば、企業間だけでなく、企業内部にもデータの分断があり、いまだに紙を使った業務処理が数多く残っています。芳賀が申し上げたように、日本の製造業は本格的なDXの入り口に立っている状況ではないでしょうか。
――欧州のインダストリー4.0の中心的な存在であるSAPから見た、日本製造業の現状はどうでしょうか。
鈴木 製造業全体を見渡した時、日本のDXが欧州や米国に対して圧倒的に遅れているわけではありませんが、「小さく始めて、小さく終わる」ケースが多いように見受けられます。工場や事業部門、機能部門の単位でさまざまなPoC(概念実証)は行われていますが、それが部門を超えて企業全体、サプライチェーンや産業界全体にスケールしていく動きが見られません。
その要因は、PoCの先にDXを企業全体にどう広げていくか、さらには企業の外とも連携することでインダストリー4.0の世界をどう実現するかという大きな青写真がないまま、局所的に取り組んでいるからだと思います。
逆にドイツのインダストリー4.0では、大きな枠組みを描いたうえで、戦略的に優先順位の高いところから取り組んでおり、そこが大きな違いです。いまのままでは、製品で勝って、オペレーションで負けるリスクが日本の製造業にはあると感じます。
髙橋 ドイツでは自動車メーカー、部品メーカー、機械設備メーカー、ソフトウェア開発企業などが2021年、自動車産業全体でサプライチェーンに関するデータを共有するプラットフォーム「Catena-X」(カテナX)を立ち上げ、品質管理やCO2(二酸化炭素)排出量分析、需要・キャパシティ管理、ハードウェア・ソフトウェアのトレーサビリティ(追跡可能性)などさまざまな領域でデータ共有を進めています。自動車産業だけでなく、航空や化学など産業横断で、かつ欧州全域でデータ連携を進める「Manufacturing-X」(マニュファクチャリングX)という構想もあります。
日本の製造業は、現場力による細かいニーズへの対応に強みがありますが、労働人口が減少する中、現場力による対応、個別企業レベルでの対応ではこの先、立ちゆかなくなるリスクがあります。カーボンニュートラルなど社会課題への対応も企業単位では限界がありますから、自前でできないことはデジタルの力を使って他社と連携することで取り組むスタンスが必要だと思います。