ショーケースを見ながら、青写真を描く

――大きな課題に直面しながらも小さく終わってしまっている国内製造業のDXを、どうやって大きく前進させていきたいとお考えですか。

奥田 デロイトでは、工場およびサプライチェーンのスマート化を実現するコンセプトとして「The Smart Factory」を提唱しています。工場内のさまざまな機器、設備、システムをデジタルでつなげてパフォーマンスを最適化するとともに、そのネットワークをサプライチェーン全体に広げていくことで新たな価値を創出していく。そのような製造業の姿を、私たちデロイトはThe Smart Factoryと呼んでいます。

 これは、デロイトがグローバルなイニシアティブとして推進しているもので、2023年5月時点で、ドイツ、米国、日本、カナダの4カ国にThe Smart Factoryを体験できるイノベーションスペースを開設しており、日本・北米・欧州の3地域でSAPさんとのパートナーシップを推進しています。そこでは4000人を超えるコンサルタントやエンジニアに加え、ハードウェアとソフトウェアの協力企業やアカデミアとも協働しながら、製造業のスマート化を支援しています。

芳賀 2021年9月に京都でオープンした「The Smart Factory @ Kyoto」には、「Factory Connectivity ~現場と経営をつなぐ~」をテーマにさまざまなデジタルソリューションを展示したショーケースエリアがあり、工場のシステムと機器、装置をデジタルでつなげることによって何ができるのかを実際に体験することができます。

 また、ショーケースエリアで得た体験をもとに、未来の工場や企業のあるべき姿を構想し、システム、オペレーション、組織や人材、あるいはビジネスモデルそのものをどう変革していくかをクライアントと私たちデロイトが一緒になってリアルに考える場として、イノベーションエリアを設けています。

 さらに、2023年秋には東京都内に「The Smart Factory @ Tokyo」をオープンする予定です。

 システムやデータが分断されているために、現場でいま何が起きているかわからないまま経営の意思決定を行わなくてはならない企業が数多くあります。国内だけでなく海外を含めて、現場で何が起こっているのかを経営層がきちんと把握でき、組織の上から下まで同じベクトルで、同じ情報に基づいて意思決定できる。それによって、アジャイルにアクションを起こし、経営課題、社会課題の解決に向かって変革していく。そういう企業の姿をThe Smart Factory @ Tokyoで示し、かつ体験できるようにしたいと考えています。

――SAPでも、顧客企業との共創イノベーション施設「SAP Experience Center Tokyo」内に2020年9月、「Industry 4.Now HUB TOKYO」(2022年から Industry 4.0 Center TOKYOへ改名)を開設し、インダストリー4.0の具現化を支援していますね。

鈴木 デロイトさんのThe Smart Factoryと同じように、私たちSAPもIndustry 4.Nowを製造業のインダストリー4.0化を支援するグローバルなイニシアティブとして展開しており、その拠点となるIndustry 4.0 Centerをドイツ、米国、日本に開設しています。

鈴木章二
Shoji Suzuki
SAPジャパン
SAP Labs Japan デジタルサプライチェーン部門長

 私たちSAPは、インダストリー4.0化を実現するには、「インテリジェントな製品」(Intelligent Products)、「インテリジェントな工場」(Intelligent Factories)、「インテリジェントな設備資産」(Intelligent Assets)、そして「従業員の主体性強化」(Empowered People)の4つの柱が必要だと定義しており、この4つの柱を実現し、かつ、つなぎ合わせるテクノロジーをIndustry 4.0 Centerで実際にご覧になれます。

 工場だけの最適化に閉ざさずに新しいテクノロジーをサプライチェーン効果創出に活用し、ビジネスプロセス層やマネジメント層にまで垂直・水平方向にアジリティを高めるSAPのソリューション全体像をご覧になることで、マネジメント層と現場層が「百聞は一見にしかず」の体験を共有し、変革へのベクトルを合わせることができます。

 たとえば、クラウド上の基幹システムで受けた顧客からの注文データが工場のシステムに伝わり、産業用PC、PLC(プログラマブルロジックコントローラー)などの制御機器、ロボットと連携して、製品の組み立てが行われる。あるいは、センサーによって製品の品質や設備の稼働状況をリアルタイムで監視し、品質不良や設備故障を予兆・予防して“止まらない工場”を実現する。そういうショーケースをたくさん用意しています。

 こうしたショーケースをもとに、インダストリー4.0の実現に向けたアイデアの創出や課題設定を行い、いつまでに何をするのかというロードマップの作成を支援するワークショップも開いています。

髙橋 私たちSAPが顧客企業に出向いてスライド資料を使って説明するより、Industry 4.0 Centerにお越しいただいて、SAPが提供するソリューションとロボットが実際に連携され、生産データがリアルタイムにダッシュボードに反映されていく様子を体感いただくほうが、インダストリー4.0の具体的なイメージをはるかに鮮明につかめると考えています。

髙橋正直
Masanao Takahashi
SAPジャパン
エンタープライズクラウド事業本部
デジタルサプライチェーン事業部 事業部長

 東京のIndustry 4.0 Centerは年間で350社ほどが利用されていますが、CxOクラスを中心に数人で来場され、ショーケースを見ながら「我が社では、こういうことができるんじゃないか」「ここに課題がありそうだ」と、その場で活発な議論が交わされる光景がよく見られます。