サマリー:2023年4月、デロイト トーマツ コンサルティング本社に、国内を中心とした半導体関連企業約20社のキーパーソンが参集し、日本の半導体業界の未来を考えるセミナーが開催された。その概要をレポートする。

長い低迷の時代を経て、我が国の半導体業界に新たな成長の兆しが見え始めている。このトレンドのただ中にある2023年4月、デロイト トーマツ コンサルティング(東京・千代田区)本社に、国内を中心とした半導体関連企業約20社のキーパーソンが参集し、日本の半導体業界の未来を考えるセミナーが開催された。今回はその内容から、日本の半導体の現在と動向、そして日本企業が目指すべき方向性について探ってみたい。

「半導体王国日本」の復権に向け、業界に変革が起きている

 この40年間、日本の半導体業界は極端な浮き沈みを経験してきた。1980年代後半から始まった需要の拡大は、ハンディビデオなどの家電製品やPCブームによって加速を続け、1990年時点の世界の半導体市場における日本のシェアは50%を超えた。当時はNECや東芝、日立製作所、富士通といった日本のメーカーが世界の売上高ランキングの上位を独占するなど、まさに半導体は「技術立国ニッポン」の象徴的存在だった。

 だがその後、PC市場とともに急成長したインテルや、価格競争力に優れた韓国のサムスン電子などの後塵を拝することとなり、情勢は急速に変化する。この結果、技術開発競争でも後れを取り、優れた微細化技術を持つサムスン電子や台湾のTSMCに大きくシェアを奪われたまま、日本の半導体業界の復活は2020年頃まで望み薄と見られてきた。

 いまそこに地殻変動が起き、日本の半導体産業に変化の兆しが見られる。売上高、出荷量はともに減少傾向が続いていたが、2021年に突然増加に転じた。その理由は明らかで、コロナ禍を機にグローバルでリモートワークやEC需要が急増して、出荷が伸びており、日本でも遅ればせながら2021年から増加し始めたのだ。

 この変化は、単なる一時的な需要の高まりと見るべきではなく、半導体のあり方を根本から問い直す大変革の始まりと見るのが妥当といえそうだ。デロイト トーマツ コンサルティングのマネジャーで、半導体業界に詳しい児玉英治氏は、その中で、従来のように各メーカーが単独で競い合うのではなく、企業間の連携が大きなカギを握ると見る。

デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー
児玉英治

 今回デロイト トーマツの呼びかけで行われた半導体業界の未来を考えるセミナーに集まった国内の半導体関連企業約20社(後述の各社)のキーパーソン、そして業界の浮沈を見つめてきたスペシャリストを前に、児玉氏はこう口火を切った。

「2023年上半期の需要は若干調整局面にありますが、中長期的な成長を見ると、さまざまな領域に需要が広がることは確実です。成長のドライバーとなるのは、AI、電気自動車、メタバースの3つです。すでにそこに向けて国内でも多くのプロジェクトが稼働中ですし、TSMC熊本工場とRapidusの2つの国家的プロジェクトによって、日本の半導体投資が諸外国に追いつくレベルに達する期待があります」

 同セミナーでファシリテーターを務めたデロイト トーマツの植松庸平氏も、今後は企業や製品領域を超えた「つながり」が重要なキーワードになってくるとして、業界関係者が参集した意義に触れ参加者に共感を求めた。

デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
植松庸平

 では、業態の変革にもつながる今回の大きな地殻変動は、何がトリガーとなっているのか。先の児玉氏の言葉を借りれば、それは「地政学的な環境変化」と「半導体技術の飛躍的な進化」の2つだ。