さらに驚くべきことに、現在、世界の半導体の年間成長率は10%を超えており、50年近くにわたってこの成長率を維持しているという。半導体を中心とする電子デバイスは、日本の代表的産業であった自動車に代わってこの先の国家安全保障やサプライチェーン、そして経済の成長エンジンとなっていく産業であるとの認識を示した。
また泉谷氏は、今後の半導体産業を牽引する具体的なテーマとして、(1)メタバース革命、(2)SDGs革命、(3)次世代自動車、(4)ロボットを含めた産業機器の4つを挙げる。
この中で、最も大きな存在となるのがメタバース革命だと明言する。求められる処理データ量も速度も桁違いのこの世界では、もはやDRAM(PCやスマホ、デジタル家電など一般的に利用されている半導体メモリー)ではなくMRAM(磁気記録式メモリー)が主役となってくる。「メタバースの端末の主役はスマートグラス・スマートウォッチと言われているが、そんな小さなところにどうやって実装するかが問われる。すなわちプリント基板の中に半導体やコンデンサなどの電子デバイスが入ってくるという世界がやってくる。そこを突破した企業が次代を開く」と泉谷氏はヒントを示す。
日本の半導体復権に向け企業や組織の壁を超えた「つながり」を
地政学的な変化によって半導体産業が国内に回帰し、一方で新たなニーズが技術のパラダイムシフトを促している。今回のセミナーでそんなダイナミズムが見えてきたが、そこで戦略の要となるのは、冒頭で触れた通り、やはりさまざまなステークホルダーのつながりであり、企業や組織の連携を可能にする新しいエコシステムの創出だろう。

工学系研究科 教授
黒田忠広氏
長く半導体業界発展に寄与してきた東京大学工学系研究科教授でd.lab(ディーラボ)センター長、RaaS(先端システム技術研究組合)理事長の黒田忠広氏は、「より多く漁業に従事する人がいる場所には、より多くの優れた道具が生まれる」と、ハーバード大学のとある研究を例え話に、日本がより多くの新しいニーズにフィットする半導体を生み出す場になれば、そこからより優れたイノベーションが生まれるという期待感をにじませた。
これをより現実味のあるものとするために黒田氏は、「国際連携」を重要なキーワードに挙げる。その戦略として、「日本が弱い微細化技術を日米台連携で補う」「日本が強い素材・製造装置と人材を高度化する」の2点を両輪に、次世代の半導体開発・製造に向けた体制を構築することを提案する。
事実、主要企業8社の支援を受け、世界最高水準の半導体の開発・量産を目指すRapidusの戦略についても、こうした文脈上にあると黒田氏は評価する。
「イノベーションにおいては、タイム・トゥ・マーケットが重要です。開発だけがスピードアップできても製造に時間がかかってしまうのでは意味がありません、そこでRapidusでは、メガファウンドリーと正面切って競うのではなく、メガファウンドリーが拾い切れない少量生産の領域に集中するという、補完関係の構築を目指しています」
最先端領域はライバルが少ないため供給も少なく、その分需要が絶えない。そこに特化して強みとすれば、存在感も確立でき、収益性も見込めるという見立てだ。
人材育成の面でも産学連携は重要だ。現在、東京大学では、高度な半導体技術人材を現在の10倍に増やすことを目標に掲げ、黒田氏がセンター長を務めるd.labで、全国の大学・高専100校および企業50社との産学協創の取り組みを推進中だ。同じく同氏が理事長を務めるRaaSでも、企業12社による国際連携と産学連携の試みが行われているという。
今回のセミナーでは、長年にわたって語られてきた「日本の半導体の復権は難しい」という固定観念が、実は悲観的な思い込みであり、すでにパラダイムシフトが起きていること、また進行中である業界の地殻変動の中で、日本に追い風が吹いているといった事実が、具体的なデータや事例によって明確に示された。日本の半導体復権を目指すうえで、重要なターニングポイントとなる催しとなった。
<セミナー参加企業>※五十音順
エヌビディア
SMBC日興証券
キオクシア
京都セミコンダクター
JSファンダリ
東芝
日本電信電話
日立ハイテク
ヒロセ電機
マーキュリアインベストメント
マーベルジャパン
マクニカ
ルネサスエレクトロニクス
他