サマリー:AIとRPAの組み合わせは、業務自動化の適用範囲を大きく広げるだけでなく、人の知性や創造性を拡張する。その時問われるのは、誰も解決できていない課題、そして未知なる価値創造へのチャレンジである。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を中心とした自動化(オートメーション)のグローバルリーディングカンパニーであるUiPathの日本法人トップ、長谷川康一氏は、RPAとAI(人工知能)をスマートフォンのように使いこなすことで企業の現場を力づけることができ、日本はDX(デジタル・トランスフォーメーション)で世界をリードできるようになると主張する。

生成系AIに象徴されるAIの急速な進化と、ハイパーオートメーションと呼ばれる次世代の自動化が、人や組織の可能性をどう拡張するのだろうか。長谷川氏とともに、デロイト トーマツの下川憲一氏、森正弥氏が、「AI×RPA」の未来を展望する。

世界をリードした日本発のRPAユースケース

 長谷川さんとRPAの出会いはどのようなものでしたか。

長谷川 私はコンサルティングファームを経て、複数の外資系金融機関でマネジメントを経験したのですが、バークレイズ銀行でアジア地域全体のCIOを務めていた時が、RPAとの最初の出会いです。

 RPAは欧米の金融機関をはじめとする先進企業から始まったといわれていますが、当初はインドなどのオフショアセンターに移管していた単純かつ大量な繰り返し作業を、何とかテクノロジーで自動化できないかという課題意識から始まりました。当時は、デジタル化のほか、さまざまな規制に対応するためもあってITへの要求が非常に多く、ITリソースに限りのあるなかで、オフショアセンターの自動化手段としてRPAの活用が着目されたのです。バークレイズ銀行のインド拠点で、いちばん最初に導入されたと理解しています。

 一方で、2017年ごろの日本の状況を顧みた時、「単純・大量・繰り返し」とは真逆の「複雑・少量・多様」な作業を現場の人たちがこなしていました。それができることが、日本の強みであったわけですが、人手不足でノウハウを継承できないとか、強みが属人化してしまって組織能力としてスケールできないといった課題も見えていました。

 そこで私は、「複雑・少量・多様」な手作業を自動化できるRPAがあれば、日本は世界をリードできる、また、日本発のRPAの新たな可能性を世界に発信できると考え、UiPathの共同創立者兼CEOのダニエル・ディネスにその思いを直接伝えました。すると彼は大いに賛同してくれて、2017年2月にUiPathの日本法人を私一人で設立、必然的に私がCEOに就くことになりました(笑)。

 職人気質のカルチャーは、日本のものづくりの現場やホワイトカラーの仕事に色濃く残っていて、それによって日本独自の品質をつくり込んできました。それだけに、「この仕事は自分が担っているのだ」という強いこだわりや自負心を持っている人が多く、「単純・大量・繰り返し」の作業と違い、自動化が難しい面はありませんか。

長谷川 たしかにそれはあります。しかし、先ほど言った通り「複雑・少量・多様」な作業を現場がこなし続けていくことの限界が見えていましたし、グローバル化でマーケットが世界に広がり、デジタル化で顧客接点が増え続けるという状況において、現場の疲弊も明らかでした。

 だからこそ、RPAによって現場の仕事を断捨離すれば、日本は再び現場の強みを活かして立ち上がることができると私は考えたわけです。そして、「自動化で日本を元気にする」というUiPathのコンセプトが支持され、国内でRPAが急速に普及したのだと思います。

 日本型のRPAは、実際に世界をリードできたのでしょうか。

長谷川 たとえば、三井住友銀行(SMBC)を中心とする三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)がその好例です。SMFGの投資家向け資料などにも書かれていますが、SMBCでは2017年から本部業務の一部でRPAの本格導入をスタートし、徹底的な業務の見直しとともに、自動化の中でもRPAで代替可能な業務については、順次RPAによる自動化を実施していきました(*1)。

 同行ではRPAに関する従業員向けの研修も行い、現場主導で業務の効率化や働き方改革に取り組める態勢を整えた結果、2017〜19年度の3年で350万時間、1750人相当の業務量をRPAによって時間創出できたそうです。これに刺激を受けて、RPAの導入を広げていった欧米の大手金融機関も多くあり、まさにRPAの新たな可能性を日本から世界に発信した例といえます。

 また、茨城県では、経済産業省出身で大手IT企業の役員を務めた経験もある大井川和彦知事の音頭で、ITを活用した生産性向上や働き方改革の一環として、2018年度からRPAの導入が始まりました。RPAとは何かを県庁職員に理解してもらったうえで、RPA化できる業務を現場から募ったところ、64の業務についてリクエストが上がってきたそうです。県の報道発表によると、初年度に20業務にRPAを導入し、年間3万5783時間(見込み)の業務削減効果があったとのことです(*2)。大井川知事みずからがその発信をされたのですが、UiPathの米国本社の幹部が感銘を受けてガバメントにおける自動化のユースケースとして世界に発信し、コロナ禍では海外での多くの自動化に役立ちました。