自動化で人の作業量が減るだけでなく、仕事のクオリティが上がる

下川 長谷川さんがUiPathの日本法人を立ち上げられた2017年以降、日本ではRPAブームと言ってもいいほど、導入ケースが急増しました。2019年まではたしかに世界をリードしている部分もあったと思いますが、2020年頃から様相が変わりました。グローバルではRPAが次のステージに進んだのです。

 具体的には、自動化の概念や適用領域が広がっていきました。(プログラミングの知識がなくてもアプリケーションを開発できる)ノーコード・ローコードツールなどの民主化されたテクノロジーやAIなど先端テクノロジーをRPAと相互に連携させ、より広範な業務で自動化を進める概念が提唱され、それを実装する企業が増えていったのです。こうした概念をガートナーは「ハイパーオートメーション」と名付け、2020年の戦略的テクノロジートレンドのトップ10の一つに挙げました(*3)。

長谷川 2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が始まったことも影響しています。自動化や無人化は日本の得意領域ですが、パンデミックで従業員が出勤できなくなったり、非接触ニーズが高まったりしたことで、欧米では急激に自動化が進んだのです。

 日本も自動化は着実に進んでいるのですが、欧米のスピードが圧倒的に速くなった結果、先を越されてしまった状況です。DX全体についても、同じことがいえるのではないでしょうか。

下川 コロナが収束に向かい、世界的にリセッション(景気後退)の懸念が高まって、ドラスティックなコスト削減の必要に迫られる企業が増えました。これも、欧米でハイパーオートメーション化の動きが強まった要因といえると思います。

 UiPathではこうした流れを先取りする形で、(業務システムの操作ログを利用して)業務プロセスを可視化するプロセスマイニングツールや、AIとRPAを簡単に接続できるプラットフォームなど、高度な自動化を実現するソリューションの提供を強化することで、世界中でユーザーを増やすことに成功していますね。

長谷川 当社では、「AI-Powered Automation」と呼んでいますが、AIと RPAを中心とする自動化は非常に相性がよく、相互補完性が高いのです。

 AIは人間が行っている分析や判断、予測などを自動化できますが、それに基づいてデータの入出力や報告といった定型作業を自動化することはできません。逆にRPAは非定型業務を自動化することはできないけど、定型業務は人の何倍もの速度で、しかも休まず、正確に処理することができます。つまり、AIが脳なら、RPAは筋肉であり、両方を組み合わせることで人がやっている業務のより多くを自動化することができ、人間はもっと高度で創造的な仕事に専念できるようになります。

 たとえば、プロセスマイニングで業務プロセスを可視化し、プロセスのボトルネックをタスクマイニングによって個々の作業まで深掘りして調べ、そこからAIで評価したうえで人間が最終判断して自動化すべき作業を特定し、RPAで自動化して、それをまたプロセスマイニングとタスクマイニングでモニタリングし、AIで再評価する。こうしたエンド・トゥ・エンドの自動化によって、PDCAやOODA(観察、判断、決定、行動)のサイクルを高速化できますし、意思決定のクオリティを高めることが可能になります。

長谷川康一
Koichi Hasegawa
UiPath
代表取締役CEO

 AIと自動化を組み合わせることで、人の作業量を減らせるだけでなく、仕事のクオリティを高められるということですね。

長谷川 さらに言えば、AI自体のクオリティを高めることにもなります。AIモデルは一度つくれば終わりではなく、データによって学習させながら、より賢く進化させる必要があります。

 エンド・トゥ・エンドの自動化でPDCAやOODAのサイクルが高速化するということは、AIの学習サイクルも高速化するということであり、AIが賢くなるスピードが速まるのです。そういう点でも、AIと自動化の親和性は高いといえ、人の役割を高めます。