既存企業のベンチャーに足りないもの

 スタートアップと比べて既存企業には多くのリソースや能力があり、それが大きな優位性をもたらすはずである。たとえば、製品、顧客、事業オペレーション、ライセンス、販売網、マーケティング、資本……。

 ところが、ノートPCしか持たないような2~3人の「はみ出し者」が企業を打ち負かしてしまうケースがあまりにも多い。なぜか。既存企業には重要な能力が一つ欠けているからだ。それは小さなアイデアを大きく膨らませ、0から1を生み出す起業家的な能力である。そのアイデアが十分に過激かつしっかりしたものであれば、スタートアップは既存企業のバリューチェーンを破壊(ディスラプト)できる。

 リーダー企業は自身のベンチャーを立ち上げてこれに対抗しようとするが、体制に取り込まれたメンバーを集めることになるので、そのベンチャーはたいてい起業家的資質に欠ける。あるいは、リーダー企業は独立したスピンアウト企業をつくってイノベーションの余地を生み出そうとするが、そのスピンアウト企業は優位性の材料となるはずのリソースそのものになかなかアクセスできない。