多忙はいまやステータスシンボル
2019年の自著The Power of Human[注]で筆者は、ある移民の逸話を紹介した。その人物は米国で暮らし始めてまもない頃、他人に"How are you doing?"とご機嫌伺いをすると、たびたび"Busy"(忙しいです)という言葉が返ってくるため、ほどなく"Busy"を"Good"(よいです)という意味だと受け止めるようになった。
パフォーマンスコーチング企業ヒンサのCOOノーラ・ローゼンダールも同様の気づきを得た。他人に"How are you?"と声をかけた時の相手の返事を1週間にわたって記録するという、ちょっとした社会実験を行った時のことである。ローゼンダールの記録によると、10人中8人近くが"Busy"と返事をしたのである。
学術研究からは、私たちの暮らしが慌ただしさを増している様子が浮かび上がってくる。ある分析によると1960年代以降、クリスマスカードに「大忙し」にまつわるメッセージが添えられる例が激増しているという。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)助教授のアシュレー・ウィランズがギャラップのデータを分析したところ、米国の勤め人のうち「常に時間に追われている」と回答した人の比率は、2011年の70%から2018年には80%に上昇していた。