さらに、もう一つ大事なのは、テーブルの上に並べるアイデアは、できるだけ幅が広いほうがいいということです。従来の価値観や歴史に囚われていると、大きなチャレンジにはつながりません。3社の経営トップは、過去の慣習に縛られることなく、若くて多様な人材の意見や考えをどんどん取り入れています。そうすることで、革新に向けたアイデアの多様性を確保しているのです。
組織文化と仕掛けづくりで
積極性と自主性を引き出す
どんなに立派な革新でも、一回限りで終わってしまうと、サステナブルな組織になることはできません。革新を続けることを、組織のDNAとして定着させる必要があるのです。革新を常態化させるために、どんな工夫をすべきなのでしょうか。
3人の経営トップに共通しているのは、若手を積極的に重職へ登用するとともに、人材の積極性と自主性を引き出す仕掛けを施すことです。和久傳の桑村社長は、旗艦店である高台寺和久傳を、一番若い料理長に任せています。帝国ホテルの定保社長は、第14代東京料理長に当時38歳の杉本雄氏を抜擢して、大きな話題となりました。人材の新陳代謝を促し、社内に新風を入れることで、組織の鮮度が保たれるのだと思います。
もちろん、ただ若手を抜擢すればいいというわけではありません。AGCの島村会長は、「人の心に灯をともす」をキーワードとして、徹底的に社員との対話を続けました。年間で150回以上を数える対話集会を通じて、革新を是とする組織文化と社員の行動様式を確立しようとしたのです。
また、和久傳でも帝国ホテルでも、人材の自主的な創意工夫を引き出すには、お客様からのダイレクトなフィードバックが最も効果的であると考え、お客様の生の声を社員に届けるための工夫を行っています。たとえば和久傳では、料理人がカウンター越しにお客様の反応をダイレクトに体感できる店舗を開設しています。
永続に向けて革新を繰り返す組織づくりは、一朝一夕でできるものではありません。しかし、そのための秘訣があることは、今回紹介した3社の実例からわかっていただけたのではないでしょうか。まずは、自社の創業精神を振り返って、自分たちの存在意義について考えてみることをお勧めします。
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