中堅企業には最新の経営コンセプトは逆効果である

 中堅企業の経営者には、他社に後れを取っていないかという不安が常につきまとう。手遅れになる前に最新の戦略アプローチを採用せよ、という忠告や警告は日々尽きることがない。新しい市場スペースを開拓せよ(この瞬時に消えてしまうチャンスを逃すな)、施策を展開する際にはペース配分を忘れるな、詳細な戦略を策定せよ、など数え上げればきりがない。

 時にはこうした経営コンセプトが役に立つ場合もあるが、我々がこれまでアドバイスしてきた大多数の中堅企業には向いていない。たいていは既存事業を最大限に伸ばすという目下の課題からマネジャーの注意を逸らすだけに終わってしまう。

 提言そのものに問題はなくとも、「戦略の秘訣」が示す大胆な動き、たとえば大規模な企業買収や新しい市場機会の追求などによって、経営者の目は現実から離れてしまうのである。最近の経営会議を思い出してほしい。その話題は「いま参入すべき新規事業は何か」であり、「いかに既存事業を伸ばすか」でなかったのではなかろうか。

 中堅企業の場合、成熟事業と見なされているものから隠れた可能性を引き出すことで、予想外の大きな価値を創造できる。年間15~20%の成長率を短期間で実現するのも夢ではない。我々の提唱するアプローチは、大きな見返りを約束するだけでなく、成果の見えない企業買収、実績に乏しい新規事業、斬新な戦略などに伴うリスクを負わずに済むという効用がある。

 我々はこれまでメーカーを中心に関わってきたが、この戦略上の優先順位を決定する方法は、サービス業を含めたさまざまな中堅企業に大きな成果をもたらす。売上高7億5000万ドル未満の企業の多くは、業種を問わず、一度に何もかもまかなえるほどの資金や人的資源を持ち合わせていないのだ。

 軍用機や民間航空機に使われる先進的な複合材料などを製造するファイバライト(本拠地はアリゾナ州テンペ)のケースを見てみよう。1990年代中頃、筆者の一人、ジム・アシュトンがCEOを務めていた2年間に、同社の企業価値は3倍になった。さらには、同社のオーナーであるDLJマーチャント・バンキング・パートナーズ(以下DLJ)の投資価値は8倍にもなった。

 1995年、DLJはファイバライトを1億1500万ドルで購入したが、うち3500万ドルを出資によって、また残りは借入金でまかなった。DLJはファイバライトの設備投資を厳しく管理し、買収も小規模なものを1件行っただけだった。