信頼は築くのに難しく壊れやすい無形資産

 ちょっとした実験をやってみよう。

 まずマネジャーの何人かに、社内で最も親しいマネジャーを信用できるかどうかを尋ねる。その答えがイエスだった場合、その理由を聞いてみよう。自分は信頼するに足る人物であり、したがって同僚も同様であるという答えがほとんどだろう。

 後者の質問への答えは、誠実さについてその人ならではの見解を反映したものだと思ってよいだろう。「同僚には包み隠さずに話している」「彼女は約束を守る人間だよ」といった言葉を耳にするだろう。

 ちょっと間を置いてから、「あなた、そしてあなたの同僚はしかるべき信頼を築く能力を備えているでしょうか」と尋ねてほしい。我々はこの質問を何度も繰り返してきたので、どのような答えが返ってくるのか、だいたい想像がつく。「信頼を築き、維持していく自信はない」、もしくは「あまりない」という答えがかなりの割合を占めるだろう。

 以上のような回答の違いはどこから来るのだろう。このように矛盾するのは、取りも直さずマネジャーたちが組織生活における厳然たる事実を受け入れていることを示している。すなわち、単に個人の誠実さだけでは信頼に満ちた組織は実現しないのである。そのためには、さまざまなスキル、適切なサポート・プロセス、トップ・マネジメントの不断の配慮を要する。

 社内の信頼関係は、コンサルタントとクライアントといった関係よりもはるかに複雑で、しかも脆弱である。相手がクライアントであれば、自らがコミュニケーションの主導権を握れるだろうが、社内では、複数の、しかも往々にして矛盾したメッセージに攻め立てられるのが常である。

 クライアント相手ならば、所期の成果について率直に合意できる。しかし社内では、さまざまなグループがさまざまな、しかも往々にして矛盾した目標を掲げている。

 クライアント相手ならば、問題があればすぐにわかるが、社内では、たとえ自分の担当でも問題の所在を知らずにいる可能性がある。