はたして「沈黙は金」なのか

 寡黙というと聞こえがよい。たとえば、謙虚である、他人に敬意を払っている、慎重である、礼儀正しいといった印象が浮かんでくる。さらに、恥をかく、だれかと敵対するなど、身に危険が迫った時、これを回避してくれるのもまた寡黙であり、長年来の礼儀作法といえよう。

「黙っているとばかではないかと疑われるが、話すとばかであることが明らかになる」とは、寡黙の利点をうまく言いえた故事である。このような人間関係上の利点ゆえに、人は沈黙する。さらに組織で生き残ろうと思えば、この傾向に拍車がかかる。

 言葉にするかどうかはともかく、多くの組織が「職を失いたくなければ、また順調に出世したければ、調和を乱さないことだ」というメッセージを発している。しかも現在のように数百万人が職を失い、さらに大半がリストラの不安を抱えているような厳しい経済状況下では、「上司の命令は絶対である」という意識も強い。

 新聞で連載されている人気漫画『ディルバート』も、サラリーマンにとって、自分の意見を述べることがいかに虚しく、かつ危険な行為であるか、痛烈に描いている。

 一介の平社員であるディルバートは、女性部長が間違った選択をしようとしているのを見て、直属の上司に相談する。「言ったほうがいいんじゃないでしょうか」。すると上司は皮肉な笑みを浮かべて答える。「そりゃ名案だ。でも、どうせ変わりっこない決定にストップをかければ、俺たちの人生もストップするぜ」

 もっとも、はっきり物申したことで、一躍脚光を浴びることになった幸運な人たちもいる。エンロンのシェロン・ワトキンス、ワールドコムのシンシア・クーパー、FBIのコリーン・ローリーは3人揃って、2002年の「今年の顔」として『タイム』誌の表紙を飾った。

 このように有名になった人もわずかながらも存在するとはいえ、内部告発は常に勇気ある立派な行為と見なされるわけではない。むしろ組織に楯突いたり、内部告発したりすれば、たいていは厳罰を受けるものだ。即刻クビになるか、もしくは窓際に追いやられ、退職を余儀なくされるかである。

 しかし、これから我々が試みるのは、沈黙を美徳とする虚飾をはぐことである。実際、我々の調査によれば、沈黙は職場の至るところで要求され、またそうされている。そして、会社も個人もそのために多大な犠牲を強いられている。