森本 とはいえ、社員のキャリア観は多様であり、会社として共通して育成したい部分、個々のキャリア観や強み、改善点に応じて育成すべき部分があります。社員一人ひとりにパーソナライズ化された人財育成を人事部門が行うのは困難です。ですから、社員に最も近いところにいる各部の管理職が行うのが、当社の部門型人財マネジメントです。人事部門は、コンサルティングやデジタル技術を活用した支援ツールの提供を通じて、各部を強力に支援しています。
そして、人財マネジメント政策委員会が、部門型人財マネジメントの実践状況や人財マネジメント制度の運用状況をモニタリングし、課題があれば機動的に改善していきます。
また、人財エンゲージメントの状況を測定し、課題を検知するためのエンゲージメントサーベイを毎年実施しています。その分析結果も同委員会でモニタリングし、課題の特定と各部門の統括担当役員の下での改善策の立案・実行というPDCAサイクルを回しています。
人財マネジメント政策委員会は2週間に1回の頻度で開催しており、活発な議論を行っています。その意味で、経営陣は人財マネジメント制度の定着と安定化にかなりのエネルギーを費やしています。
柴田 人財マネジメントの分権化は最近の潮流の一つですが、現場に丸投げしてしまうと部門長がパンクしてしまいます。御社のように人事部門がしっかりサポートし、経営陣がそれをモニタリングしながら、制度運用の強化と柔軟な調整を図ることが大切です。
高い頻度で人財マネジメント政策委員会を開催し、運用面にも経営陣が時間と労力を注いでいることに、コアバリューへの強いこだわりを感じますし、人財が競争力や価値創出の源泉だと信じているからこそ、そこまでできるのだと思います。
森本 取締役会においても、社長をトップとする業務執行部門から取締役会に付議されるさまざまな企画や報告について、コアバリューに合致しているかどうかという観点を持って徹底的に議論します。バックグラウンドの異なる一人ひとりの取締役が、自由闊達で建設的な議論を行っています。
コアバリューを実践するための「3つの責任」
柴田 コアバリューの実践度合いについてモニタリングする仕組みもあるのですか。
森本 中期経営戦略や単年度の経営戦術がコアバリューから落とし込んだものになっていますので、業務執行部門の統括担当役員は四半期ごとに経営戦術の進捗状況をチェックすることを通じてコアバリューの実践度合いをモニタリングし、取締役会に報告します。
また、業務執行部門では、部門型人財マネジメントの中で、コアバリューの実践を含んだ「人財エンゲージメントプラン」を毎年策定・運用しており、その進捗を四半期ごとにチェックし、人財マネジメント政策委員会に報告しています。
さらに、全社員を対象とする年1回のエンゲージメントサーベイにおいて、コアバリューの実践状況を把握しています。
そのほか、毎年の社員個々の行動評価において、コアバリューの実践状況を評価しています。実践できている部分もあれば、期待通りに実践できていない部分もありますので、上司と部下の間で少なくとも四半期に1回、一対一の対話で振り返って、できていない部分は今後どうやって強化、改善すればいいかを一緒に考えてもらいます。
柴田 コアバリューを実践しても、短期的な成果が上がらないことがありますよね。一般の会社では、企業理念やパーパスと合致していないとわかっていても、目の前の業績を上げるために仕方なくやってしまうことがありそうです。
森本 ここで、「3つの責任」についてお話ししたいと思います。これは、「結果責任」「最善のプロセスを確保する責任」「説明責任」で構成されています。
1つ目の結果責任は、ビジネスとしての成果が出たかどうかです。2つ目の最善のプロセスを確保する責任は、成果につなげるプロセスの中で、お客様第一の視点に立っているか、コンプライアンスはすべてに対して優先されているかなど、コアバリューの観点で最善かどうかです。そして、3つ目の説明責任は、成果の有無にかかわらず結果とそこに至るプロセスについて合理的に説明できるかどうかです。
仕事ですので、ベストを尽くしても結果につながらないことはあります。その意味で、最善のプロセスを確保する責任を果たすことはとても重要で、この責任がしっかりと確保されていれば、結果だけを見て即座に責任を問われることはありません。今回は成果につなげられなかったとしても、最善のプロセスを確保する行動は、それを実践した社員への信頼となり、それが次の仕事の機会を得ることにつながり、次の機会には成果を出すことが期待できると考えます。