パーパスとエシックスその関係をどうとらえるか

並木 名和先生の著書『パーパス経営』が広く読まれ、日本でもパーパスを重視する経営に前向きに取り組む企業が増えています。それはとてもいいことだと思いますが、パーパスとエシックスの関係性についても経営者は深く考える必要があるのではないでしょうか。

 私は、パーパスとは志に基づく目的地であり、そこにたどり着くうえでの自分たちの世界観を規定するのがエシックスであるというとらえ方をしています。「バリュー」や「行動規範」と言い換えるとわかりやすいかもしれませんが、私は哲学的な広がりを持たせるためにあえて世界観と言っています。

 具体例を挙げると、グーグルの理念である「Googleが掲げる10の事実」の一つは、「Do No Evil」(邪悪になるな)から「Do the Right Thing」(正しいことをせよ)、そして「You can make money without doing evil」(悪事を働かなくてもお金は稼げる)へと進化していきました。前の2つは行動規範としての意味合いが強いですが、3つ目はこういう世の中であるべきだという同社の世界観を言語化したもので、それに基づいて目的地である「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」へ向かうというスタンスを明確にしています。

 パーパスがないとどこへ向かえばいいのかわからないし、エシックスという世界観で道筋を照らさないと目的地にどうたどり着けばいいのかわからない。そういう関係だと思っています。

名和 私は最近、パーパス経営には「3つのP」が必要だ言っています。1つ目のPはパーパスで、これは20年、30年先の理想です。その理想から目の前の現実をとらえて、ギャップを埋める行動を実践する。これが2つ目のPであるプラクティスです。そして、パーパスとプラクティスを結ぶ判断軸となるのが3つ目のP、プリンシプル(信条、原則)で、これを実装しないと理想と現実の行動がばらばらになってしまいます。

名和高司
Takashi Nawa
京都先端科学大学大学院 ビジネススクール 教授

 パーパスを自分事化するには、組織のパーパスと個人のパーパスの重なりを大きくしていくことが重要ですが、プリンシプルも同じで会社から一方的に押しつけられたものは自分事になりません。

 自分事になっていないと、日々の判断や行動に反映されませんから、言っていることとやっていることがずれてしまい、パーパスの実現どころか、ブランド価値を損ねることになりかねません。

 ですから、自分のプリンシプルは何なのかを一人ひとりがよく考えなくてはなりませんし、リーダーとしては個人のプリンシプルと組織のプリンシプルをどう重ね合わせるかを考えながら、実装していく必要があります。簡単なことではありませんし、時間もかかりますが、それを避けていたら、いつまでも理想を実現できないと思います。

並木 リーダーとしては、ルールを細かく規定して組織を統率するほうが、ある意味で楽ですよね。でも、その時々の場面や当事者によってどういう判断や行動が正しいかは違ってくるので、その一つひとつをルール化するのは現実的ではありません。ルールベースで統率するほど、一人ひとりは自分事として考えなくなりますから、自発的に理想へと向かう組織のエネルギーが衰退します。

並木将仁
Masahito Namiki
インターブランドジャパン
代表取締役社長 兼 CEO

 ルールという定規に当てはめるのではなく、プリンシプルに基づいて自分で考え、行動することが大事です。

 先ほど紹介した『インテンショナル・インテグリティ』のインテンショナルという部分が肝心で、あるべき世界観を共有し、それに向かって一人ひとりが意思のある行動を取れる組織は、正解が揺れ動く倫理的課題にも対応できるのだと思います。