プリンシプルベースで動ける企業文化を担保する
名和 インテンショナルをコンシャスという別の単語で表現することもできますが、(米自然食品スーパー大手)ホールフーズ・マーケットの共同創業者であるジョン・マッキーは、「コンシャス・キャピタリズム」(意識の高い資本主義)を標榜していました。利益や株主価値の最大化だけでなく、より高い目的を意識したビジネスを目指すもので、いまで言うステークホルダー資本主義に近い考えです。
彼は、資本主義は放っておくと堕落するので、一人ひとりが意識を高く持ち、顧客やサプライヤー、地域社会、環境とゼロサムゲームにならない事業を運営すべきだと主張し、そのためにコンシャスなリーダーシップやカルチャーが必要だと考えました。実際、彼は一人ひとりがコンシャスに判断する企業文化をつくり上げ、ホールフーズのブランド価値を高めました。
そのホールフーズを2017年に137億ドルという巨費を投じて買収したのが、ジェフ・ベゾスが率いるアマゾン・ドットコムです。私は、企業文化が異なるホールフーズをアマゾンがなぜ買収したのかが不思議で、いろいろな人に聞いてみました。その結果わかったのは、ベゾスは自分が引退した後もアマゾンを進化させたいと思って、ホールフーズを買収したのではないかということです。
アマゾンにはよく知られた「リーダーシップ・プリンシプル」がありますが、その筆頭に挙げられているのが「Customer Obsession」。平たく言えば、お客様第一主義です。アマゾンはこれを徹底して追求していますが、顧客のために安さや配達の速さを追求するあまり、サプライヤーや配送業者、そして社員が泣かされているのではないか。顧客の側がそう疑い始めて、「そんなアマゾンは好きになれない」と言い始めた。
そういう顧客の変化、エシカルな意識の高まりにベゾスが気づき、ホールフーズのコンシャスなリーダーシップとカルチャーを取り入れることで、アマゾンのプリンシプルをアップデートしようとした。あの買収劇にはそういう真相が一面にはあったのではないかと思われます。
マッキーは、アマゾンに買収された後もホールフーズのCEOを続け、ベゾスがアマゾンのCEOを退任した翌年の2022年秋に40年以上トップを務めたホールフーズから退きました。ベゾスとしては、やはり新しいプリンシプルの実装をマッキーに期待した部分が大きかったのではないか。私はそう思っています。
並木 世界が多極化し、倫理観も多極化する中で、企業リーダーはいま何をすべきか。最後にその点について考えてみたいと思います。
私は、大きく3つ挙げられるのではないかと考えます。1つ目は、なぜ、いつ、どのような立場を取るのかというプリンシプルを明確に定義することです。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授のナンシー・コーエン氏は、「リーダーがどのように意思決定を行うかは、意思決定そのものと同じくらい重要だ」と語っています。社会や生活者は、企業がどのように意思決定をするかをよく見ているということを認識する必要があります。
2つ目は、従業員がプリンシプルベースで動ける企業文化を担保することです。インテンショナル・インテグリティを組織にどう浸透させるかを著者のチェスナット氏に尋ねたら、彼は「従業員は自分を映す鏡だと思って、リーダーが行動することだ」と言っていました。従業員がプリンシプルベースで行動していないとすれば、それはリーダーがそうしていないからです。