並木 そして3つ目は、直面する可能性がある倫理的課題に対する意思決定と行動の予行演習を繰り返すことです。正解がない倫理的課題に対して立場を明確にすることは、特定のステークホルダーから反発を招くリスクを伴います。その時に、自社のプリンシプルに即してどう意思決定するか、その結果、どういう影響が生じるのかをシミュレーションする。それを繰り返すことが、倫理的リスクに対してぶれない姿勢をつくることになりますし、プリンシプルベースで行動する企業文化を担保することにもつながります。
仮に立場を明確にしないのなら、少なくともなぜそうしないのかというメッセージを発する必要があります。反発を恐れて何も意思決定しない、説明もしない企業やブランドは、誰からも信用されません。
実践知を積み上げた組織文化によるガバナンス
名和 いまの並木さんのお話は、プリンシプルをプラクティスに落とし込むことが実践知になり、実践知の積み重ねが企業文化をつくると言い換えることができます。
ディズニーのテーマパークには「The Five Keys」(5つの鍵)という行動規準があります。2年ほど前までは、Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の4つで、頭文字を取ってSCSEと言われていました。
優先順位もこの順番で、効率がよくて、ショーが洗練され、礼儀正しくても、安全でなければ無意味だと考え、全キャスト(従業員)はSCSEの順で判断、行動するように徹底的にトレーニングされてきました。判断、行動を実践する中で間違うこともあるでしょうが、そこから学習して、組織全体として実践知を積み上げていく。それがディズニーパークのブランドの根幹を成す仕組みであり、学習優位の競争戦略ともいえます。
2021年に新たな行動基準として加えられたのがInclusion(さまざまな考え方や多様な人々を尊重すること)で、社会の倫理的な価値観の変化を受けて取り入れられたものです。いまは、SCISEの順になっています。
並木 現場の実践知を形式知化し、組織としての共通概念、世界観に昇華させていくナレッジマネジメントの仕組みといえますね。それを組織に実装することで、カルチャーとして意思決定と行動をガバナンスする。コンプライアンスやルールで統率するより、はるかに高度で実践的なカルチュラル・ガバナンスが、いま企業に求められているといえそうです。
株式会社インターブランドジャパン
〒105-0001 東京都港区虎ノ門3-2-2 虎ノ門30森ビル
URL:https://www.interbrandjapan.com/