そもそも「デジタルエシックス」とは、その名の通り、デジタル化が進む状況下において倫理的に正しい行動を促すものだ。

「デジタル化を進めるうえで倫理的観点が必要だと言うと、“守り”の印象が強く、ビジネスのスピードを低下させる要因になりかねないと考える人もいますが、そうではありません。倫理に取り組むことで、組織間で対話が活性化するなどして、よりよい製品をつくるアドバンテージになります。さらに、デジタルエシックスは、デジタルデバイドの解消にも役立ちますし、アジャイルガバナンスにも通じていきます」(今岡氏)

 たとえば、デジタルエシックスは、企業らしさを追求した価値提供にもつながるという。

「昨今広まっている『パーパス経営』においては、単に技術や製品を売るのではなく、自社の存在意義を明確化し、社会貢献を軸に事業を展開することが重要となっています。ただ、企業らしさを発揮しながら技術開発を行う時には、社会的視点やプライバシーなど、さまざまな場面で判断に迷うこともある。その際の指針となるのがデジタルエシックスです。パーパスに基づいたぶれない倫理観によって、急がば回れのようなことがあっても、結果として開発のスピードをさらに速め、自社の強みを発揮することができるのです」(今岡氏)

 とはいえ、「デジタルエシックスはまだ体系的に整理されていないため、必要性について、企業での理解や浸透は、まだその過程にあると考えています」とNECデジタルトラスト推進統括部長の島村聡也氏は話す。

NEC デジタルトラスト推進統括部長 島村 聡也 氏

 多くの日本企業は、誰もまだやっていないことをやろうとする際に、同業他社の動向をうかがったり、前例から判断するなどして足踏みしてしまうことも少なくない。それは、世界における競争力低下の要因となる。島村氏は「誰もやっていないことを『やらないデメリット』と『やることのバリュー』を検討する際、デジタルエシックスは役立ちます。なぜならそれは、自社の大切な価値観であり、結論を出す羅針盤になるからです」と指摘する。

 なぜNECはデジタルエシックスに着目し、その必要性を強く訴えるのだろうか。