顔認証で世界をリードするNECだからこそ気づいたデジタルエシックスの重要性
NECがデジタルエシックスに着目した背景には、顔認証で米国国立標準技術研究所主催のベンチマークテストにおいて世界ナンバーワン評価を6回も獲得するなど、高精度な顔認証技術の開発がある。
「私は、顔認証の専門家として新たな技術開発に携わってきました。技術的には、日本はけっして海外に比べ遅れているとは思いません。ただ、その技術を社会に実装するためにはプライバシーなどの解決しなければならない倫理的観点に意識を向ける必要がありました」(今岡氏)
デジタルエシックスは国内ではまだ新しい概念だが、顔認証などで世界的な実績を上げているNECでは早くから実践されてきた。その取り組みについて、島村氏は次のように話す。
「NECは、生成AI、生体認証なども含めたAI事業に強みがあります。これらは大きな利便性をもたらすとともに、人権やプライバシーを十分に考慮する必要があります。そこで当社ではこれらの取り扱いに関するガイドラインを策定するとともに、2018年には、AIと人権に関する全社戦略の策定・推進を担う専門組織としてデジタルトラスト推進本部(現デジタルトラスト推進統括部)を設立、2019年4月に『NECグループ AIと人権に関するポリシー』を策定するなど、他社にも先駆けてデジタルエシックスを推進しています。個社としてこのように取り組んでいることが、当社の競争力を向上させています」
また、海外の取り組みからは学ぶべきことが多いという。特に、1986年に国民の個人ID番号制度を導入し、電子政府やデジタル先進国として知られるデンマークは、デジタルエシックスに関しても世界の先駆けで、NECも動向を注視している。
「デジタル先進国であるデンマークには、国立機関のデンマークデザインセンターがあります。同センターは1970年代から国民との対話によって社会デザインを変革する取り組みを進めています。その中の一つのテーマにデジタルエシックスがあり、デジタル技術やアイデアの開発時に、それが倫理的であるかどうかをステークホルダーとの対話で導き出すために用いられる『デジタルエシックスコンパス』といったツールなども開発しています」(今岡氏)

デンマークだけでなく、多くの国でデジタルエシックスへの取り組みが始まっている。「海外のデジタルエシックスの潮流として、基本的人権、民主主義のリスクから、人類の安全性へと関心がシフトしています。つまり、生成AI等の急激な利用拡大により、いままで存在しなかった革新的な製品・サービスなどイノベーション創出への期待と可能性がある一方で、AIの兵器利用やデジタル技術の意図しない使われ方、デジタルエコシステムを構成する要素のブラックボックス化やマルチエージェントシステムの高度化などによる社会システムや経済への創発的リスクをどう防ぐかという関心が広がっています。グローバルサウスは、特にプライバシーとデータ保護に着眼しているという特徴があります」(北村氏)