AIを使って顧客や自分たち自身の体験をどう変えていくか

プレイド 執行役員CTO
牧野 これまで機械やソフトウェアなどの人工物にはできず、人間がやるしかなかった領域に、これからAIが入り込んでくるでしょう。人間がやるべき業務が根本的に変わっていくと思います。
AIが得意とするのは、データが大量にあり、多くの人がやっている一般的な業務です。データの集計と分析、報告書作成、マニュアルやルールに基づく問い合わせ対応、ソースコードの記述などがその典型です。そうしたコモディティ化したタスクでは、人が介在するプロセスが大きく減り、かなりの部分をAIに任せられるようになるはずです。これまでも、一部の業務では機械化や自動化が進んできましたが、そのスピードがいっきに加速し、領域も広がると思います。そうすると、過去の経験やノウハウに基づく業務運営の効率性の高さは、企業の差別化要素としてはあまり有効ではなくなります。
逆にAIが不得意なのは、あまりデータがなく、一般化されていない仕事です。典型的なのが、その企業が独自に顧客に提供している価値を創造することです。AIが得意な部分と不得意な部分をよく見極めて、人は価値創造に向き合い続けることが重要になります。

プレイド 執行役員 VP of Engineering & Product, Ecosystem
竹村 仕事をするうえで、本質的な価値を求められる時代になるでしょうね。たとえばエンジニアで言うと、プログラム言語の文法を細かく覚えることよりも、そのプログラム言語の特徴や、利点と欠点を大きくとらえること。そして、プロダクトをビジネスと結び付けるセンスのようなものが、もっと求められてくるはずです。手を動かす細かい作業はAIに任せる流れになりそうなので、いま述べた能力を持っているチームは開発速度が圧倒的に上がると思います。
一方、これまではエンジニアやクリエーターといった専門家に頼らないとできなかったこと、たとえばデータ分析や、ちょっとしたプロダクト開発、画像生成などをAIが実行可能になってきているので、ビジネスサイドのスピードも上がっていくでしょう。
つまり、AIを活用することで人の能力や価値が拡張され、ビジネスのスピードがどんどん加速していく。そういう変化が起こっていくはずです。
プレイドの顧客企業やパートナー企業の方々と話しても、AIに仕事を奪われるといったネガティブなとらえ方ではなく、AIを使ってお客様や自分たち自身の体験をどう変えていくかを考えたいというポジティブな声がほとんどです。そのためにプレイドにも協力してほしいという声が多いですね。
牧野 組織全体で見れば、人と機械がハイブリッドで仕事をこなす部分がどんどん大きくなっていくと思います。たとえば、大量のデータを読み込んで、その結果を中立的に分析するのは人間よりAIのほうが得意です。AIは一瞬で回答を出せますが、その回答が合理的であったとしても独自性はありません。AIを使えば、誰でも平均的な回答を得られるからです。
それでは企業として差別化はできませんので、AIの提出する回答結果を踏まえてどっちの方向に行くか、その意思決定をするのは人間の仕事です。どういう意思決定をすると、どんなリスクがあるのかをAIを使って把握したうえで、新しい価値創造に意思を持ってチャレンジする。それが、人と機械のハイブリッドな仕事の一つの具体像です。
AIだけでなく、メタバースあるいはデジタルツイン、Web3、IoTなど新しいデジタル技術が、相互補完的に変化を加速させていくことになると思います。エンドユーザーの立場で考えると、消費、仕事、余暇、交流などさまざまな活動をするうえで“場”の制約から解放され、いろいろな価値や恩恵を享受できる場が多様になっていく可能性を広げるのが、こうした新しいデジタル技術の共通点です。
企業の側からすると、多様な場にまたがるエンドユーザーの活動状況をデータによって把握し、より深い顧客理解に基づいて、その時々で最も適切な価値を提供できるかどうかによって、顧客とのエンゲージメントが決定づけられます。ですから、表面的な顧客接点のデジタル化といったレベルではなく、企業活動全体が顧客価値創造を中心に駆動できるように、事業モデルやビジネスプロセスを抜本的にデザインし直す必要があります。
両氏の話を総合すれば、新しいテクノロジーによって場の制約から解放された人々は、多様な価値や恩恵を求めて活動の場をリアルとバーチャルの両面で広げていく。そして、その活動は従来に比べてはるかにスピーディなものになる。あたかも瞬間移動するかのような人々の動きに企業はどう追随し、価値提供を続けていけばいいのか。