デジタルテクノロジーが大規模に再現する原点回帰の動き
竹村 場の制約という点で言うと、物理空間での豊かさの追求はいろいろな意味で限界に来ていると思います。土地を開発してインフラを整備したり、建物をつくったりすることが経済的な豊かさをもたらしたのは事実ですが、開発にも限界がありますし、これ以上地球環境への負荷はかけられません。
その点、デジタル空間はまだまだ未開発です。デジタル空間を広げるにはデータセンターをつくらなくてはならないので、環境負荷はあるのですが、物理空間の開発に比べればわずかです。
それも含めて、これから先はデジタル空間において人々が活動する場がどんどん増えていくことになると思いますが、これまでのように巨大プラットフォーマーだけが中心になって進めていくのではなく、自律分散的にも増えていく。
自律分散的に増えるのですが、活動する人々は孤立したいのではなく、むしろ人やコミュニティとつながりたくていろいろな場を移動するわけですから、場をつなぐピースというか、識別子のようなものが重要になってきます。その識別子は人にひもづいている必要があります。
どの場にいても、一人ひとりが個人として認識され、個性や価値観、嗜好を尊重したうえで、さまざまなサービスや価値が提供される。そういう世界観が実現されないと、トータルな顧客体験価値は上がっていかないと思うんですよね。
牧野 分散的に増えていく場を個人が自律的に移動しながら、サービスやコミュニケーション、つながりを求めていく。それは何の脈絡もなく動き回っているわけではなく、その人の価値観や嗜好といったもので構成されるコンテクストがあるわけです。
事業者側が、それぞれの場において一人ひとりのエンドユーザーと価値のあるインタラクションを起こすには、そのコンテクストを理解することがカギになります。
竹村 これまでは、企業という人の集まりがプロダクトやサービスを開発して、物理空間や、ウェブサイトやアプリなど限定的なデジタル空間を通じて、それらをエンドユーザーに提供してきました。場の制約があったから、そのほうが企業にとっても、エンドユーザーにとっても効率的だったからです。
でも、デジタルテクノロジーによって場が拡散すると、まとめてつくって、まとめて提供することが効率的ではなくなり、規模の経済が働きにくくなります。異なる場にいる異なる個性を持つ人々を相手にする以上、画一的な顧客体験の提供に終始するようでは、価値の総量の最大化は望めないということです。
その時に、事業者とエンドユーザーが何によってつながるのかと考えると、お互いの存在をリスペクトできるかどうかといった価値観に大きく左右されるのではないかと思います。つまり、「人と人」のつながりです。
たとえば、リスペクトできる生産者を見つけて、その人と直接つながり、その人がつくったものを購入する。そういうことはいまでも散発的に起こっていますけど、デジタルによってそうした動きが加速されていく。前近代的な経済活動は人と人のつながりで成り立っていたと思いますが、デジタルがそれを大規模に再現していく原点回帰のような動きが強まるのではないかと想像しています。
今回の前編では、AIに象徴される新たなデジタルテクノロジーが企業活動や企業と顧客の関係構築にどういったインパクトを及ぼすのかを、牧野氏と竹村氏に俯瞰的な視点で述べてもらった。次回の後編(2024年3月29日公開予定)では、デジタルテクノロジーがもたらすパラダイムシフトを所与の条件として、プレイド自身が提供価値をどう変革しようとしているのかを聞く。
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