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コロナ禍以降、社会・経済の不確実性が高まり、新市場への進出を実現する新規事業の創出を喫緊の課題として位置づける経営者も少なくない。とはいうものの、ヒト、モノ、カネといった経営資源が豊富なはずの大企業であっても苦労しているのが実情だ。その原因や背景のほか、実現にはどう取り組めばいいのかについて、経営戦略が専門の早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授、長内厚氏に聞いた。
非連続的な価値創造が多くの産業で喫緊の課題に
コロナ禍以降、新規事業の創出はDX(デジタル・トランスフォーメーション)などと並び、日本の企業経営者にとって注目のキーワードとなっている。なぜ、これほど新規事業が重要なテーマになっているのか。
早稲田大学教授の長内厚氏は「コロナ禍で経営環境があまりにも急激に大きく変わりました。顧客の消費行動も変わり、多くの企業がこれまでのやり方が通用しない局面に直面しています。その結果、新規事業は『将来に備える』というよりも『喫緊の課題』としてとらえられるようになり、本気で取り組む企業が増えました」と解説する。
とはいえ、多くの企業経営者は、新規事業がなかなか創出できないという悩みを抱えている。そして、多くのビジネスパーソンは意外にも「優良な大企業ほど新規事業は生まれにくい」ということを肌感覚で知っている。なぜ、人材も資金も豊富な優れた大企業が新規事業の創出で苦労するのか。
長内氏によると、大きく分けて2つの理由があるという。一つは「生産性のジレンマ」の問題であり、もう一つは、詳しくは後述するが、「効果の経営」と「効率の経営」のバランスが取れていないという点だ。
生産性のジレンマとは、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授のウィリアム・アバナシー氏が、自動車工場を事例に提唱した経営学の用語である。生産性を高めた工場ほど、技術革新や新しいアイデアが出にくくなるという現象を指摘したものだ。
「優れた会社であればあるほどいままでのやり方にものすごく順応し、効率よく回す方向に進化していきます。いわゆる『連続的な変化』の積み重ねの結果、それ以外のやり方や考え方を無駄なものと判断し、排除してしまいます。このため、『非連続的な変化』である新規事業に必要な要素、新しいやり方や考え方などが根づきにくくなってしまうのです」(長内氏)
一方の「効果の経営」「効率の経営」とは何か。
長内氏によると、効果の経営は、画期的な新製品や新技術、新事業などといった“新しい価値”を生み出す「価値創造」に重点を置いた経営。もう一つの、効率の経営は、既存の商品や事業からいかに収益を得ていくかという「価値獲得」を重視した経営を指す。