川邉 DX企画部はデジタルを使ったサービスの企画・設計を行い、カスタマーサクセス部はスマートフォンアプリやホームページ、コンタクトセンターなどサービスをお届けするラストワンマイルの開発・運用を通じて、顧客体験の高度化を追求する実行部隊です。カスタマーサクセス部には、アプリケーションのアジャイル開発チームもあります。そして、実際の顧客体験をデータでとらえて検証し、その結果をサービスの企画・設計に反映させていくのが、データサイエンス部です。

 このDX3部門を一体運営し、企画、実行、検証のサイクルを高速に回転させることが、顧客体験を変え、新たな価値を提供することにつながると考えています。

りそなグループアプリの開発でパートナーとの共創、アジャイル開発を本格化

大畑 りそなグループは外部パートナーとの協働、共創にも力を入れています。オープンイノベーション共創拠点「Resona Garage」(りそなガレージ)は、共創先企業とのコラボレーションスタジオとして開設されたものだそうですが、トランスコスモスはこれまで、りそなグループのDXにどのように伴走してきましたか。

添谷 当社は主にウェブサイトを中心としたデジタル施策の実行で伴走してきました。一部のデジタル広告やコンタクトセンターの運用もパートナーとして支援しています。

 りそなグループからは、銀行目線ではなくお客様の目線で、お客様にとって最もわかりやすく、使いやすいウェブサイトを一緒につくっていこうと声をかけていただきました。そのために両社がワンチームとなって、フラットに議論しながら企画からページ改修までをワンストップで実施する拠点として、コラボレーションスタジオを開設しました。それがいま、Resona Garageへと発展し、さまざまなパートナーが集う共創の拠点になっています。

川邉 私たちがオープンな共創に力を入れるようになったのは、過去の苦い経験があったからです。私たちの「りそなグループアプリ」(2018年リリース)は足元では758万ダウンロードを超え、多くのお客様にご利用いただいています。実は、その前にいくつかのアプリを開発していたのですが、いずれもお客様に受け入れられませんでした。

 細部まで要件定義して、設計・テストを入念に行ったうえでリリースしたのですが、結局、お客様目線になっていなかったのです。ではどうすべきなのかを考えた時、私たちにはない生活者やエンドユーザーに関する知見、あるいはUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の専門性などを持った人たちと組むのが一番だという結論になり、パートナーとの協働、共創に本腰を入れました。

 それと同時に、いい顧客体験を素早くお届けするには、アジャイル開発の体制が欠かせないと考えました。「(社会的信用やコンプライアンスが重視される)金融機関がアジャイル開発って、大丈夫なの」と心配する声もあったのですが、そこは一歩踏み込んでチャレンジすることにしました。

添谷 アプリ開発にしろ、ウェブサイトの改修にしろ、アジャイルに進めるのはリスクもあります。でも、川邉さんたちは、「リスクは共有するから、お客様にとってベストなものを一緒につくろうよ」というスタンスですので、私たちとしてはすごくやりがいがあるし、お客様に真剣に向き合える仕事はやっていて楽しいですね。

 たとえば、りそな銀行では私たちがご提案したプレイドのCXプラットフォーム「KARTE」を導入されています。お客様がウェブサイトを利用する目的や期待されることは千差万別ですが、そうした多様なニーズに対応するためにコンテンツやバナーをあれこれ盛り込むと、使い勝手の悪いウェブサイトになってしまいます。そうならないように、お客様の属性や行動などのデータをもとに、それぞれのお客様にふさわしい情報を、適切なタイミングと方法で伝える。それを実現するために、KARTEをご提案したわけです。

添谷航司
Koji Soeya
トランスコスモス
CX事業統括 DX推進本部 CXサービス統括部 副統括部長

 お客様が知りたいことを伝わりやすい形で表現するために、ウェブサイトのデザインやコピー、コンテンツなどを細かくつくり込んでいますが、それに対してお客様の反応はどうだったか、KARTEを活用して迅速に検証しています。検証の結果、改善すべきことがあれば、りそな銀行がスピーディに判断してくださるので、私たちもすぐに動けます。どれだけ熟考しても仮説が間違っていることはありますから、顧客体験をよりよいものにしていくには、このスピードが重要だと思います。

川邉 本気で取り組んだ結果であれば、成功であっても、失敗であっても、得られるものは大きいと思います。本気で新しいことにチャレンジした結果が仮にうまくいかなかったとしても、それをナイスチャレンジに変えることは十分可能です。

 アジャイル開発は単なる開発手法ではなく、高速に改修・改善を続けるためのビジネスの組み立て方であり、組織体制、カルチャーを含む広い概念だととらえています。私たちはそれをりそなグループアプリの開発プロジェクトから本格的に取り入れ始め、ウェブサイトの運用やサービス開発、新規事業開発などに広げています。