浅野 開示については、いままでは強制力のある基準・規制がありませんでした。したがって、昨今のサステナビリティ開示規制整備に係る動向は、データ定義を含めた対応をスピードアップさせるきっかけになります。
一方で、情報開示は企業の体制・取り組みとその結果です。最終的な「開示」だけでなく、実際の「活動」と「結果」、そしてその「プロセス」も重要になります。
細井 温室効果ガス排出量の削減に向けた製品開発を例に挙げると、製品ごとにその温室効果ガス排出量を「可視化」するカーボンフットプリント(CFP)という仕組みが不可欠です。製品の企画・開発段階から温室効果ガスを管理し、製品仕様だけでなく削減オプションと製品コストをシミュレーションする機能の開発や各サプライヤーとのコミュニケーションを通して、調達部品単位に排出量を把握・管理することも必要です。
小林 こういった整理と並行して、将来を見据えて、何を目的にするのか、どこまでの業務をツールで行うのかを考える必要があります。既存の社内システムを踏まえ、全体システムの構想やアーキテクチャーの検討を行い、ツールを選定することが大切です。

ディレクター
小林信一朗 氏
システム導入、ツール選びにおけるポイントとは
――具体的には、ツール選定時には、どのような点に留意すべきでしょうか。
小林 カーボンニュートラルに関する業務は、比較的新しいです。そのため、スタンダードとなる業務やそのための機能をゼロからつくるのではなく、可能な限り標準的な機能を備えたツールを使い始めるというアプローチが合理的だと思います。
しかし、収集や可視化といった基本的な機能だけでなく、開示や保証対応要件もカバーし、「そのまま使える」というレベルのツールは現時点ではありません。
したがって、ツールの標準機能は参考にしながらも、前述の戦略に基づいて取り扱う業務プロセスや、必ず実現しなければならない機能要求を、ツール選定の前に落とし込んでおくことが近道になると考えています。
また、カーボンニュートラル対応にイノベーターとして戦略的に挑んでいる企業は、ツール選定後の開発工程においても、追加で機能が必要になったり、規制が変更になったりし、対応を求められる可能性は往々にしてあります。
そうなると、そもそもの選定時には、柔軟性に優れたカスタマイズ性の高いツールが適しています。逆に、まずは特定のデータの収集・可視化を主目的とするなら、ある程度標準化されたツールを「まずは使ってみる」というアプローチが適しているでしょう。