磯和 失敗を糊塗したり、隠蔽したりしようとすると失敗を活かせないカルチャーになってしまいます。だから、「失敗しました。どうもすみません」と素直に認められる人は、評価されるべきだと思います。
失敗と成功って、0か1かのバイナリーではなくて、失敗しても「ここはよかった」という部分もあれば、成功したけど「ここはだめだった」という部分もある。要は、だめだった部分から何を学んで次に活かしていくかであり、失敗を組織の資産として使っていくカルチャーをつくることがすごく大事です。
倉橋 どうせ失敗するなら、学びが大きい失敗をしたほうがいいと思います。失敗に至った意思決定でどれだけ考え抜いていたか、自分の意志を込めたのか。あるいは、実行に移す前の仮説をどれほど深く検討したか。そういったことで、学びの総量は変わります。
磯和 「あつものに懲りてなますを吹く」みたいに、失敗したからといって必要以上に用心深くなるのはよくないですし、大きな失敗がプラスに転じることもあります。いずれにしても、失敗を活かせないカルチャーをつくることが最悪の失敗です。
会社が潰れる危機感があったからこそ時間投資を続けられた
倉橋 CDIOミーティングでの提案は増えているのですか。
磯和 増えていますし、グループ全体に広がっています。カード会社や証券会社などグループ各社からもどんどん提案が上がるようになっています。
CDIOミーティングの大きな特徴は、独自の予算を持っていることです。ですから、ゴーサインを出すかどうかを即決できますし、決めたらすぐに予算をつけられます。

Akio Isowa
三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
三井住友銀行 専務執行役員
各事業部門は収益責任を負っていますから、やるべきだと思っていてもすぐに収益化が望めない新事業やサービスには予算をつけづらいですよね。そういう案件がよくCDIOミーティングに上がってきます。たとえば、Oliveもそうですし、米国の銀行子会社の新ブランドとして一から立ち上げたデジタルリテールバンク「Jenius Bank」(ジーニアスバンク)にも予算をつけました。
倉橋 当社はプロダクトとプロフェッショナルサービスの両面から、いろいろな企業の事業開発やDX(デジタル・トランスフォーメーション)をご支援していますが、意思決定のスピードを取っても、グループ全体のダイナミズムという点でも、SMBCグループほどのレベルまで来ているケースはまれです。
しかし、先ほど10年前はメガバンクの中でも出遅れていたとおっしゃっていたように、すぐにいまのレベルに到達できたわけではなく、10年にわたって時間投資を続け、少しずつレベルアップ、スケールアップされてきた。そのぶれない姿勢があったからこそ、いまがあるのだと思います。
磯和 時間投資を続けられた最大の要因は危機感です。合併当時の三井住友銀行は、他のメガバンク2行に比べると、体力的にかなりの開きがありました。いまはようやくグループで1兆円規模の純利益を出せるようになりましたが、一時は公的資金で支えてもらったこともありました。
何もせず、何も変わらなければ、この会社は潰れてしまう。少なくとも私たちの世代はその危機感を忘れていません。変革を続け、企業価値と社会的価値を上げ、社会に恩返しをしなければならない。そういう思いは強く持っています。
倉橋 アイデンティティに危機意識が埋め込まれている組織は、変化に強いと思います。米国市場を見ていると、企業の新陳代謝が激しいですし、労働市場の流動性も高い。競争に勝てない企業はすぐに淘汰され、社員は職を失うことになります。だから、テクノロジーにしても、ビジネスモデルにしても、新しいものにすぐにアジャスト(順応)する。危機意識の差がスピードの差になって表れていることが、先行する米国を日本が追う構図がなかなか変わらない要因の一つだと思います。