信頼のネットワークをスタートアップにも活用してほしい

倉橋 デジタルイノベーションは、銀行のビジネスモデルを変革するドライバーにもなりそうですね。

磯和 そう思っています。先ほど名前を挙げたSMBCクラウドサインは、弁護士ドットコムとの合弁会社で、銀行員が銀行のお客さまに電子契約サービスを販売するビジネスモデルです。銀行と共同開発した新機能「AI契約管理サービス」は、2024年3月に導入企業数が1万社を突破しました。

 また、CO2排出量の算定・削減を支援するクラウドサービス「Sustana」(サスタナ)は、2024年8月時点で、累計導入企業数は2000社を超えました。

 これからはファイナンスだけでなく、業務改革やDXなどでも取引先を支援し、お客さまの業績を伸ばすことで当社も成長する。そういうビジネスモデルにしていく必要があると思いますし、すでにそうした好循環が生まれています。

倉橋 金融機関としての信頼が、非金融サービスでも活きてくるということですね。

磯和 その通りです。銀行は、お客様との日々の取引の中で築き上げてきた信頼が最大の資産です。その信頼を損なうようなことはできません。その意味で、取り扱う商品やサービスの品質は厳しく吟味しますが、スタートアップを含めた企業の皆さんに我々の信頼という資産と全国に広がる顧客ネットワークを一つのプラットフォームとしてうまく活用し、成長につなげてもらえればいいと思っています。

倉橋 当社のプロダクトをご利用いただくところから御社との関係がスタートしましたが、やはり大手金融機関での導入実績があると他業種からの信頼度が上がります。いまでは御社からお客さまもご紹介いただいていますし、ビジネスチャンスが広がったことを実感しています。

 まずお客さまの成長ありきで、それが自社の成長につながるという考え方は、私たちもまったく同じです。単純に言ってしまうと、生活者やユーザーのデータを、クライアント企業が使いやすくするのが当社のプロダクトで、データの利活用による事業成長を支援するのが私たちのビジネスです。その点でも、御社のビジネスモデルとの親和性が高いとあらためて感じました。

倉橋健太
Kenta Kurahashi
プレイド
代表取締役CEO

AIアラインメントには時間がかかる

倉橋 これからさらにデジタルイノベーションを進めていくうえで、AIの活用は避けて通れないと思いますが、SMBCグループとしてAIがもたらす変化にどう向き合っていくお考えですか。

磯和 専用環境上でのみ動作する社員専用のAIアシスタント「SMBC-GAI」を開発し、2023年夏から活用し始めました。提案書や議事録の作成、翻訳など業務の効率化に役立っていますが、本当の勝負はその先にあると思っています。

 ほとんどの企業では、人間のキャパシティに基づいて組織がつくられています。大企業だったら一つの部はだいたい100人くらい。顔と名前が一致してすぐに意思疎通できたり、それぞれの働きぶりがわかったりするのはせいぜいそれくらいの人数までで、仕事が増えてきたら別の部をつくる。そうやって部が増えていくと、情報や業務の流れが分断されて、組織全体がお客さま起点で動けなくなります。

 たとえば、中小企業のオーナーが会社を売却しようと思った時、売却先の候補リストは投資銀行部門が持ってきて、オーナー個人の資産運用や節税対策はプライベートバンキング部門の社員が提案してくる。人間のキャパシティに基づいて組織を分けているから、オーナーが本当に求めている提案ができないし、営業効率も悪くなる。そういうことが、至るところで起きているのが現実だと思います。

 お客さまからすれば、SMBCグループのケイパビリティ(組織能力)を総動員して、ベストな提案をしてほしいはずです。部門の壁を越え、グループ全体のケイパビリティを統合できるポテンシャルがAIにはある、と私は考えています。

 ただ、そのポテンシャルを発揮させるのには時間がかかります。なぜかというと、AIアラインメント、つまりAIを人間の意図や価値観、倫理観と合致させる必要があるからです。SMBCグループがどんな価値観やカルチャーを持ち、何を大切にして意思決定したり、お客さまと接したりしているか。そういうデジタルデータになっていないものを、AIにどう学習させればいいか。長く時間をかけて勝負していくしかないと思っています。