倉橋 おっしゃることはすごくよくわかります。AIは、いまある仕事や人間がすでにできることを効率化するのは得意で、世の中に出回っているAIを使えば誰でも比較的簡単にできます。
逆にいまはない仕事をつくり出したり、誰も知らない情報や知識を発見したりすることはAIには難しい。でも、お客さまにとっての提供価値はそういうところから生まれるし、磯和さんがおっしゃるように企業が独自の価値を提供しようとすると、その企業のアイデンティティとなっている価値観やカルチャー、考え方を身にまとっている必要がある。社内文書を全部読ませても、いまのAIにはまだ難しいと思います。
ポイントとなるのはやはり、まだデータになっていないものをどうやってデータ化していくかで、そこは時間を投資していく必要があります。
AIは日本人の働き方に合っている
磯和 社員同士でもお客さまとの対話もインターフェースはどんどんデジタル化されて、テキストや音声などのデータがたまってきているので、それは活用できると思います。
ただ、人間が意思決定した時に頭の中で何を優先したのかといったことはわからないので、人間の考え方を何度も学習させて、AIが出した答えが自分たちの考えとずれていたら、どこがずれているのかをフィードバックする。人間とAIが一緒に走りながら調整していくことが必要で、それは終わりのない旅かもしれません。ある時点で人間がやっていることが、すべてAIに置き換わるというのは、あまり現実的ではないと私は見ています。
倉橋 フィードバックというのは重要なキーワードで、いまのデジタルの世界はユーザーが自分の意思や感情をフィードバックする仕組みがほとんどありません。たとえば、何かのサービスを使っている時に感じた不満や不安をユーザーはその場でフィードバックすることができず、データにも残りません。
それをユーザー一人ひとりのコンテクスト(文脈)から分析できないかという取り組みを、いま私たちは進めています。CXプラットフォーム「KARTE」でユーザーの行動をリアルタイムに可視化できるので、(一人ひとりに焦点を絞る)n1分析をていねいに行えば、行動から心理を読み取ることはできるのですが、何千人、何万人というユーザーを網羅することは物理的に難しい。
そこで、デジタルコンテンツのデータと行動データをひもづけて、一人ひとりの行動の意味を探り、ユーザーコンテクストとして可視化できないかという取り組みを始めています。アパレル業界で検証を進めているのですが、たとえば「上質な日常」とか「個性豊かな」といったテキストを見た時、それをどう解釈してどう反応するかは、世代や性別、好みなどによって異なります。そうしたコンテンツと行動の関係から、コンテクストをデータ化する部分でAIをうまく活用できるのではないかと考えています。そこに、ユーザーからのフィードバックを組み入れれば、精度をさらに高められるはずです。
磯和 日本はハイコンテクストの文化だけに、非常に面白い取り組みですね。
日本に合っているという点でいえば、AIは日本人の働き方にぴったりだと私は思っています。先ほど、AIには部門の壁を壊すポテンシャルがあると言いましたが、日本の企業はもともとジョブディスクリプション(職務記述書)を細かく決めていないので、部門が違ってもアイデアを出し合ったり、お互いの仕事を手伝ったりするのは珍しくありません。AIで部門を超えて人と人、ケイパビリティとケイパビリティをうまくつなげば、総合職型、マルチタスク型の日本の強みを活かせます。
逆にジョブディスクリプションを前提に業務と責任の範囲が固定的に決まる米国の企業は、AIを使っても部門や職務階層の壁を越えるのが難しいのではないでしょうか。日本に逆転のチャンスがやってきた気がします。少なくとも、そういう前向きな発想がないと、AIを取り込んだ大きなイノベーションは起こせません。
倉橋 そうですね。米国と同じ土俵で、同じことをやっても逆転のチャンスはありません。誰の足跡もない新しい道を突き進むのがイノベーションにつながると思うので、日本のよさを活かしながら、グローバル市場に対してインパクトのあるイノベーションを起こしていきたいですね。
株式会社プレイド
〒104-0061 東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 10F
https://plaid.co.jp
https://karte.io