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〈バービー〉はなぜシェアを奪われたのか
2001年から2004年にかけて、マテルは着せ替え人形市場のシェアを全世界で20%も落としてしまった。〈ブラッツ〉などのおしゃれな新製品を売り出したMGAエンタテインメントをはじめ、中小の競合他社に負けたからだ。
MGAはマテルが見逃した変化、つまり13歳未満の少女の早熟化が進み、いっそうおませになりつつあるというトレンドに乗じたのだった。目の肥えた彼女たちは、幼稚な〈バービー〉にあき足らず、10代の兄や姉、そして憧れのスターのような人形をほしがるようになっていた。
かつては3~11歳くらいの子どもたちに愛された〈バービー〉のターゲット層が3~5歳までに縮小するにつれて、難攻不落と思われていたマテルの金城湯池は、〈ブラッツ〉シリーズにどんどん切り崩されていった。
旗色の悪い〈バービー〉にマテルもついに腰を上げ、より年長の少女をターゲットにした〈マイシーン〉シリーズを投入し、さらにヒップな感覚が売り物の〈フラバス〉ブランドも立ち上げて、〈ブラッツ〉と正面対決を挑んだ。しかし時すでに遅く、40年間も着せ替え人形界の女王として君臨した〈バービー〉は、みるみる領土の5分の1を失っていった。それは、マテルにとって想定外の事態だった。
人口動態の変化、ニュー・カマー、新技術、規制など、青天の霹靂ともいえる環境変化に見舞われる企業は多い。MGAのように、その予兆をいち早く察知し、チャンスに変えるには、どうすればよいのだろう。またマテルのように、足下をすくわれないためには、何に取り組めばよいのか。
このような脅威には、えてしてかすかな兆候がある。それは、視界の隅にぼんやりと映る小さな変化だ。人間の周辺視野と同じように、この手の兆しは見落としやすく、影響も推し測りにくいが、やがて死活に関わることが少なくない。
目の前の基礎データを解釈するのは造作ないことだ。しかし、何かが足りないことに気づく能力、言い換えれば「大切なものを見落としていないか」と周囲に目を光らせることも忘れてはならない。
我々は、戦略論、組織論、意思決定論における研究成果に学び、ウォートン・マック・センター・フォー・テクニカル・イノベーションで10年にわたって続けてきた新技術の研究、世界各国のさまざまな組織との交流を通じて、「戦略の視力検査」を開発した。これは、企業の周辺視野を診断し、これを強化するためのツールである。