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売上高と利益が最大化するポイント
サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフ。ここにあるインアンドアウト・バーガーを訪れて、真っ先に浮かんでくるのは「4」という数字かもしれない。赤、白、黄、グレーの4色。4台並んだレジの向こうには、愛想のよいレジ係が4人。メニューの品揃えもバーガー、フライドポテト、シェーク、炭酸飲料のたった4種類である。
材料はすべて加工しないまま届けられ、レジ係の後ろに設けられたオープン・キッチンで調理される。店内で食事する客や、中庭のベンチでぱくつく客はわずかしかいない。クレジット・カードはお断りのため、ほとんどの客が小銭を手に来店し、商品を受け取るとすぐに店を後にする。
インアンドアウト・バーガーにとって、顧客満足度と業務プロセスの複雑さが最適にバランスする商品数、つまり「イノベーションの均衡点」は4なのだ。つまり、買いやすく、調理しやすく、サービスしやすいところは4という数字で表現できるのである。ファスト・フード業界は、新しい業態と新しい商品を永遠に競い合う運命にある。このような世界にあって、利益ある成長の秘密はこの単純さにある。
同族経営の同社は、カリフォルニア、アリゾナ、ネバダの3州の広い範囲に約200店舗を展開しており、2003年の売上高は、前年比で9.2%増の3億800万ドルだった。この成長率は、ファスト・フード業界における平均のほぼ2倍である。業界アナリストは同社の利益率を20%と推定しているが、これも業界ではずば抜けて高い。
では、あなたの会社のイノベーションの均衡点はどこなのか。つまり、売上高と利益の両方が最大化する製品やサービスの数はいくつなのか。たいていの経営者ならば、このように問われて、あわてて頭をひねり始めることだろう。そんな均衡点がどこなのか、皆目見当がつかず、何となくわかっているのは、あるいは少なくとも間違いなさそうなのは、現在の品目よりもかなり少ないということだけだろう。
実は、行きすぎと思われるくらい、新製品開発に走るのは、強い動機あってのことである。店舗の棚を競い合い、市場シェアを守り、競合他社からの攻撃を食い止めるうえで、いちばん手っ取り早い作戦は、往々にして特色ある製品やサービスを世に送り出すことなのだ。
マスコミは、経営者がブランドや製品カテゴリーを大胆かつ革新的に甦らせた活躍劇を至るところで紹介している。経営者も投資家もみな、このような物語のとりことなり、全社を駆り立てて、なおいっそうの製品開発にいそしませる。
しかし、イノベーションを追求するにも、その度を越えてしまうことがある。イノベーションが加速するにつれて、収益性が頭打ちになり、さらにはマイナスに転じたという話はざらだ。その理由は、一言で表現すれば「複雑性」である。新製品の発売や製品ラインの拡大が度重なれば、オペレーションの至るところで複雑性が高まる。そして、その複雑性を管理するコストが増えれば、利益率が低下するという理屈だ。
経営者もこの問題に気づいていないわけではない。2005年、ベイン・アンド・カンパニーがグローバル企業の経営者900人超を対象に調査した結果、回答者の70%近くが、過剰な複雑性はコストを増加させ、利益成長を阻害すると答えている。ただし、本当の原因を見落としている経営者が多い。つまり、複雑性の源は製品ラインにあり、そこから、業務のあらゆる側面に伝染し、拡大していくことに気づいていないのである。