投資家からは想像以上に多くの好意的な意見

田中 インパクト評価は現時点では制度化されたものではありません。したがって、何を戦略的な目的・狙いとして取り組みを進めるかが重要です。日本の大手企業は今後、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が公表したサステナビリティ開示基準への対応を進めることになりますが、それらのプロセスとも連携しながら、まずは自社の企業価値観点から重要なトピックを特定し、インパクトを評価していくことが第一歩となるでしょう。

田中晴基
デロイト トーマツ コンサルティング
Strategy Unit
CSV/Sustainabilityリーダー
ディレクター

 インパクト評価は、企業が自主的に取り組んでいる段階ですが、定量化・貨幣価値換算化されたインパクトを対外的に発表することで投資家を中心としたステークホルダーからサステナビリティ先進企業という認知を得られる可能性が広がります。また、インパクト評価によって社内的により高度な意思決定ができるようになれば、社会に貢献するイノベーション創出への期待も高まります。

 さらに言えば、B&Hプログラムのように患者さんとご家族だけでなく、医療機関や社会保障などへのインパクトを貨幣価値として示すことができると、現地コミュニティや政府から共感や支持を得やすくなり、その市場における事業活動にもプラス効果があるはずです。人材採用の点でも、有利に働くでしょう。

飯野 当社では2025年2月に開催した投資家向け説明会で、B&Hプログラムの貨幣価値算定結果を含むインパクト評価の取り組みについて公表しました。保健医療へのアクセス向上のための施策について、社会的インパクトを数値化した事例は、他社を含めてこれまでほとんどなかったことから、投資家からは想像以上に多くの好意的な意見をいただきました。

 当社の経営層からは、貨幣価値換算することでプロジェクトの重要性を判断しやすくなるという意見や、Access to Healthの他のプログラムにもインパクト評価を適用すれば、数値で比較しながら効果検証できそうだといった意見がありました。

大室 足かけ2年、デロイト トーマツ コンサルティングとの非財務パフォーマンス可視化プロジェクトを通じて、汎用性がありつつもアステラス製薬らしさが表現できるフレームワークを構築できたと感じています。

 すなわち、医療的価値、心理的価値、経済的価値というインパクト領域と、患者さん、その患者さんを支える家族や医療機関、そして社会保障や産業全体といったインパクト対象者という2つの軸でマトリックスに落とし込み、それぞれの項目の貨幣価値を可視化したことは、私たちのフレームワークの独自性の一つです。

 今後もこのフレームワークを活かして、Access to Healthの他のプログラムのインパクト評価を試みたり、将来的には他のマテリアリティにも貨幣価値換算の範囲を広げたりしていきたいと考えています。

森田 冒頭で紹介した通り、VBAとIWAを「インパクト会計」というフレームワークに統合する作業が進められています。インパクト会計は、気候変動や水の利用、賃金などフレームワークで提示されたインパクト項目をすべての企業が算定し、開示することを理想としています。ステークホルダーが各企業を同じ基準で比較しやすくなるからです。

森田寛之
デロイト トーマツ コンサルティング
Finance Transformation Unit
Sustainability Finance リーダー
執行役員

 将来的には企業もこの理想に向けて歩んでいくべきだと考えますが、自社で算定可能なインパクト項目を一部でも特定し、継続的に算定していくことが最初の一歩として大事だと思います。そのためには算定すべき自社としての重要トピックの選定、継続的算定に向けたデータの定義・収集プロセスの整備が必要になります。

 また、中長期的な企業価値向上につなげていくためには、算定トピックを増やすことや算定範囲を製品から事業、企業全体へと拡張することも視野に入れなければなりません。そのためには、グループ内でのインパクト評価への理解向上がより重要になります。

飯野 これまで企業価値創造ストーリーを定性的に語ることはできても、定量的に説明するのは難しかったのですが、今回のフレームワーク構築によってサステナビリティに関連するさまざまな活動について、説得力を持ってステークホルダーの皆様にご理解いただく基盤ができました。

 革新的な医療ソリューションの創出という本業を通じたサステナビリティへの貢献を、強い信念で引き続き推進していきたいと思います。

森田 非財務価値の可視化やインパクト評価というと、非常に難しい概念だと思われる方や、全社規模で実施しなければ意味がないと考える人がいるかもしれません。しかし、数字を算出することだけが目的ではなく、インパクト定量化に取り組む中で自社の活動や製品の本質的な価値について考える絶好の機会になりますし、利用可能なデータを含めて取り組みやすいところから始めてもかまいません。

 デロイト トーマツ コンサルティングは、インパクト可視化の検討から推進まで、多くのプロジェクトを経験していますので、ぜひ私たちと一緒にインパクト評価の活用にチャレンジしてみてください。

* 「インパクト評価」についてさらに詳しく知りたい方は、こちら
* アステラス製薬が「サステナビリティ・ミーティング2024」で社会的インパクト可視化について説明した資料のダウンロードは、こちら