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働きすぎると管理能力が低下する
デイビッドは、机を指で叩きながらPCのeメールを読み、同時に地球の裏側にいる経営幹部と電話で打ち合わせをしている。その膝はドリルのように貧乏ゆすりしている。時折、唇をかみ、コーヒー・カップに手を伸ばす。15分前にスケジューリング・ソフトが知らせてくれた約束も忘れてしまうくらい没頭し、いくつもの仕事を同時進行させている。
シニア・バイス・プレジデントのジェーンの部屋はCEOのマイクの隣にある。何か話があればすぐできるはずなのだが、できた例しがない。
「マイクの部屋にいると、いつも彼の電話が鳴るか、私の携帯電話が鳴るか、ノックの音がするか、さもなければマイクが突然PCに向かってメールを打ち始めるか、私に取り組んでほしい課題の説明を始めてしまうのです。我々は猛スピードで仕事をこなしているだけで、大事なことはまったくできていません。もう頭がおかしくなりそうです」とジェーンはこぼす。
デイビッド、ジェーン、マイク、これら3人の頭がおかしくなってしまったわけではない。しかし、このままでは精神を病んでしまうだろう。
このような働きすぎのマネジャーは近頃珍しくない。あなたの同僚、おそらくはあなた自身も例外ではなかろう。彼ら彼女らを苦しめているのは、「ADT」(注意欠陥特質:attention deficit trait)とでも呼ぶべき、きわめて切実だが、なかなか自覚されにくい脳内現象である。
ADTは、脳に過剰な負荷がかかることで生じる。いまやビジネスマンの流行り病といえるかもしれない。主な症状は、注意力の散漫、感情の激しい起伏、忍耐力の低下である。
ADTになると、整理したり、優先順位をつけたり、時間を有効に活用したりといったことが難しくなる。このような症状は、有能なマネジャーの能率を著しく低下させる。ただし、これらの症状を脳神経の働きとして理解できれば、何か問題が起こってから対処するのではなく、積極的に管理できるようになる。
私は25年にわたって、精神科医として「ADD」(注意欠陥障害:attention deficit disorder。医療現場では「注意欠陥/多動性障害」あるいは「AD/HD」と呼ばれる)を診断、治療してきたが、この障害によく似た状況が成人に急増している。これは私の実感である。