「コンテクスト」でひもづいた人の行動を「線」で捉える
牧野 人は何の脈絡もなく行動しているわけではなく、意図や背景、価値観、(行動の)前後関係など何らかの「コンテクスト」(文脈)に基づいて動いています。つまり、行動を単発の「点」で捉えるのではなく、コンテクストでひもづいた「線」として捉えるべきで、このコンテクストを深く理解することによって、より精度の高い顧客理解が可能になり、最適な顧客体験を創出できると私たちは考えてきました。

プレイド
執行役員 CTO
「データによって人の価値を最大化する」というミッションの下、(CXプラットフォームの)「KARTE」(カルテ)を軸に顧客理解と顧客体験向上に取り組んできた私たちは、これまでも行動のコンテクストという概念を重要視してきました。AIを活用することでデータからコンテクストを導き出したり、そのコンテクストをデータ化したり、さらに抽出したコンテクストデータを顧客理解や顧客体験最適化に活かしたりすることが、現実的なテーマになってきました。
これまでの顧客理解や分析は、既存の構造化データが中心であり、その解釈や分析は一部の人間が行ってきました。AIを活用することで、既存データから得られる解釈が増えるだけでなく、これまで活用できていなかった商品レビュー、アンケート、SNS投稿といった非構造化データも取り込めるようになります。
こうして抽出したコンテクストデータはLLM(大規模言語モデル)の学習データとなっていない新しいデータであり、今後非常に重要なデータになっていきます。
西村 コンテクストを理解したうえで顧客に接することができれば、顧客側は「自分のことをわかってくれている」という気持ちになりますし、商品・サービスを提供している側は「お客様の役に立っている、貢献できている」という実感が高まります。
たとえば、旅行代理店の店舗に来店予約を入れた顧客が、来店前にどんな情報を検索していたか、過去にどんな旅行をしたかがわかれば、店舗での接客が変わります。ハワイ旅行の情報を検索していた顧客で、去年もハワイに行っている人であれば、ハワイ旅行を前提に接客の準備をしたほうがいいでしょうし、去年はバリ、その前はモルディブに行った人であれば、リゾート島の旅行商品を豊富に揃えて接客に備えるべきだと考えられます。
あるいは、不動産物件を探している顧客の場合、物件が決まるまでに何度も来店することがあります。最初と2度目、3度目では来店前に検索している地域や間取り、価格、周辺環境などの情報が変わっている可能性があり、それを知ったうえで接客できるかどうかで顧客体験は変わるはずです。
一人ひとりのコンテクストデータを捉えて接客や営業をパーソナライズするだけでなく、自社の顧客全体のコンテクストデータを俯瞰的に分析すれば、自社が提供すべき商品・サービスはどんなものかという商品企画や、どのような顧客を対象にどんなメッセージを発信すべきかといったマーケティング企画にも活用できます。あらゆる業種・業態のさまざまな業務領域でコンテクストデータが活きてくると私たちは考えており、複数のクライアントとPoC(概念実証)に取り組んでいるところです。
牧野 わかりやすい例で言うと、いま自分が必要としていない、興味・関心がない商品やコンテンツがレコメンド(推奨)されたり、ポップアップで出てきたりすると、人はわずらわしさを感じます。コンテクストを理解できていれば、そうしたネガティブな顧客体験を減らすことができ、離脱や解約の防止につながります。顧客との長期的な関係を構築するうえで、単純ですがとても重要なポイントです。
西村 ECサイトを例に取ると、キーワード検索の精度が低くてほしい商品が見つからず、探すのを諦めてしまうことがありますが、検索エンジンがコンテクストを読み取ることができれば、検索精度を上げられます。

プレイド
Business Lead of AI
そのほか、一般的にレコメンドで出てくる商品は、関連商品や類似商品の中でも売れ筋商品に限られますが、4つレコメンドするなら、2つは売れ筋商品、後の2つはコンテクストに基づく推奨商品という組み合わせにすることで、顧客と商品の新たな出会いの場をつくることができます。ECサイトに商品を出品している側からすると、新規顧客獲得の機会が広がります。
牧野 それぞれの商品が関連しているコンテクストを捉えるために、AIを利用した「スマートコンテクストタグ」という機能を開発しています。たとえば、アパレル商品であれば、色・柄・サイズ・素材・機能のほか、カジュアル、フォーマル、フェミニンといったデザインのテイストなど、いろいろな切り口でタグ付けできます。もちろん、人力でタグ付けしてもいいのですが、大変な労力がかかりますので、それをAIで自動化します。
一つの商品にいくつものタグがついていたとしても、顧客が検索した商品、実際に購入した商品のタグをAIで網羅的に分析して、データの中に埋もれていた意味やインサイトを掘り起こし、人では思いつかなかった、新たなコンテクストを発見できる可能性もあります。
また、私たちは「コンテクストセッション」と呼んでいますが、一定の時間内にどんなタグが振られた商品を、どれくらいの時間をかけて見ていたかをデータ化することで、コンテクストの変化を捉えることも可能です。