JVや提携はスタートでつまずくとまず失敗する

 過去5年間、世界全体で約5000件のジョイント・ベンチャー(JV)と、それ以上の数の戦略的提携が成立している。現在、JVのトップ100社の年間売上高は合計3500億ドルを上回る。

 このように企業間の提携は、先行きが不透明な市場におけるリスク・マネジメント、大規模投資にかかる資本コストの分担、成熟事業に新鮮な起業家精神を甦らせるなど、理想的な手段となりえることが明らかになっている。

 なお、本稿で言うところの戦略的提携とは、親会社が資本金、人材などの経営資源を投じて新会社を設立するJV、新会社を設立することなく企業同士が協力し合う事業提携を指す。

 これらに固有の課題をどのように乗り越えるか、いまだ十分に理解されていない。1991年、我々はJVと事業提携の49事例について調査した。その結果、成功例と呼べるものは51%にすぎなかった。なお、成功の定義は、各パートナーが資本コストを上回る利益を達成していることとした。

 そして約10年後の2001年、公表されている戦略的提携2000件以上について、その成果を調査した。すると、その成功率は53%と、変化らしい変化は見られなかった(囲み「戦略的提携の実態調査」を参照)。

戦略的提携の実態調査

 JVの初期段階における課題とは何であるか。これをさらに追求するために、我々はポストM&Aマネジメントと戦略的提携を専門とする同僚たちと一緒に、世界各国から25の事例を選び出し、JVの設立に直接関係した経営幹部50人へのインタビューを2002年と2003年に実施した。

 その調査対象は、総資産規模、あるいは総売上高が3億ドルを超え、ある程度の業務統合を含んだ案件である。その業種は、自動車、消費財、エレクトロニクス、電力、金融サービス、製薬、通信など多岐にわたり、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、新興市場を拠点としている。

 そのほとんどが設立されて2~5年経っており、その業績を分析するには十分だが、マネジャーたちには設立間もない頃の記憶が鮮明に残っている。

 くわえて我々は、過去10年にわたって500人以上の幹部に提携についてインタビューし、1000社以上に提携戦略、その組織編成、計画、そして再編に関するアドバイスを提供してきた。また91年と2001年には、提携の成功率とその成敗を分ける要因に関する調査を発表している。

 戦略的提携に関する我々の定義は、リスク、報酬およびコントロールの共有を含めたコラボレーションという広範囲を対象とする。具体的には、新会社を設立するJV、独占マーケティング権や独占営業権などの事業提携(出資を伴う場合と伴わない場合の両ケース)、そして共同マーケティング契約である。

 本稿は主にJVに焦点を当てているが、調査結果の多くは事業提携にも該当する。

 さまざまな調査がJVの失敗要因を明らかにし、多くが知るところとなった。にもかかわらず、戦略の選択ミス、パートナー同士の相性の悪さ、不平等あるいは非現実的な契約、経営陣の弱さなどが相も変わらず指摘される。本稿を執筆する土台となった直近の調査でも、これらの課題は依然として存在している。

 JVはなぜ失敗するのか。それは、多くの企業がJVや事業提携に不可欠な要素を見落としているからだ。すなわち、立ち上がり段階の計画と実行である。M&Aの場合、厳格な規律に則って統合される一方、同じ規模でもJVや提携の立ち上がり段階に十分な経営資源が投じられることは稀である。しかし、立ち上がり段階でミスを犯すと、往々にして新規事業が創出するだろう期待価値の半分が損なわれることすらある。