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ザンビアの物語が世界銀行を変革した
1998年、私は教えを請うためにテネシー州ジョーンズボローの国際ストーリーテリング・センターを訪問した。数年前、世界銀行におけるナレッジ・マネジメントのプログラム・ディレクターを務めていた時、偶然にも「物語」の効力を知ることになったからである。
当時の私は、多くの企業幹部同様、感傷的で情緒的な態度を軽蔑していた。それゆえ、冷静な分析こそが正しいものであり、物語は害を及ぼすと考えていた。ところが、その考えを改めざるをえなくなった。それ以来、物語に着目し、これは具体的な事業目標に向かって組織を活性化するものだと考えるようになった。
90年代半ば、世界銀行の行員たちをナレッジ・マネジメントに巻き込むという目標を掲げた時、抵抗に近い違和感が組織の各所から湧き上がった。
組織に散らばる知識を集約させる必要性について話しても、だれも耳を貸してくれなかった。とにかく、少しでも興味を駆り立てようと、〈パワーポイント〉で作成した資料を使って、ナレッジ・シェアリングを組織の強みとして生かすことの重要性を力説した。
私の話を聞かされた行員たちはただ困惑しているかのようだった。捨て鉢になった私は、何でも試してみようという気持ちになっていた。こうして96年、一つの物語を話し始めることとなる。
「95年6月、ザンビアの小さな町で活動する医療関係者が、アメリカ国立疾病予防管理センター(CDC)のホームページにアクセスし、マラリアの治療に必要な情報を入手しました。これは、世界最貧国の一つであるザンビアの、首都から600キロメートルも離れた小さな町で起こった出来事です。その点について思いをめぐらせてみてください。ここで我々が最も注目すべきは、世界銀行がこの件にまったく関与していないということです。貧困対策に関するさまざまなノウハウを持っているはずの我々が、何百万に及ぶ人々にその知識を提供する機会すらないのです。今後我々は、どのような組織になるべきなのでしょうか」
この短い物語は世界銀行の全行員にとって、従来とは異なる組織の未来像を描かせるきっかけとなった。後にナレッジ・マネジメントが世界銀行の正式な優先課題に位置づけられた時、すでに醸成されていた行内の熱気を持続させるべく、また私は同じように物語を用いた。
こうして私は「ストーリーテリング」という手段を、より効果的に活用する方法を模索し始めた。そして──理性あるマネジャーならばそうするように──専門家に相談することにしたのである。