サマリー:オートバックスセブンは「データマネジメントセンタープロジェクト」を通じ、経営とIT、DXが三位一体となったデータドリブン企業への変革に挑んでいる。組織改革から基盤整備、そして顧客体験の革新まで、その軌跡を... もっと見る追う。 閉じる

自動車産業が「100年に一度の大変革期」を迎える中、既存の事業構造にとらわれず、いかに新たな価値を創造していくか。この問いに対し、大胆な組織改革とデータ活用で挑むのが、オートバックスセブンだ。同社IT管掌兼オートバックスデジタルイニシアチブ代表取締役社長の則末修男氏は、経営とIT、DXを三位一体と捉え、全社横断の「データマネジメントセンタープロジェクト」を立ち上げ、顧客データを核とした企業変革を推進している。
本稿では、データ活用の最前線で企業を支援するプレイドの執行役員CGO、桑野祐一郎氏と則末氏の対談を通じて、オートバックスセブンが目指す「データドリブンな会社への変革」の軌跡を浮き彫りにする。

ITとDXが一体となった推進体制

桑野 最初に則末さんの経歴を簡単にご紹介いただけますか。

則末 日本総合研究所でシステムコンサルティングなどを担当した後、分社化したJSOLで流通・サービス業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、2018年にオートバックスセブンに入社しました。

 その翌年にオートバックスセブンのIT戦略やDX戦略の役員を担当し、そして2023年にグループのDX戦略子会社として立ち上げたのが、オートバックスデジタルイニシアチブ(ABDi)です。

桑野 現在、オートバックスセブンのIT管掌とABDiの社長を兼務されていますが、オートバックスセブン本体にもIT部門はあるのですか。

則末 いえ、ありません。IT・DXの戦略企画から開発、運用までABDiに一本化しています。IT・デジタル技術とデータを活かした企業価値向上に取り組むためにこの体制にしました。

 本社にIT企画部門があり、情報機能子会社がシステム開発・運用・保守を担当し、具体的な業務は外部に委託するといったケースはよくありますが、それだと意思決定の効率が悪いですし、実行のスピードも遅くなります。

 また、ABDiが発足する前は、いわゆる「ラン・ザ・ビジネス」(現行事業の維持・運営)がIT予算の8割を占めていたのですが、それでは顧客価値や企業価値を高めるための戦略的な予算を確保できません。

 オートバックスセブンでは2032年度に連結売上高5000億円の達成を長期目標としていますが、それはITの力なしでは成し遂げられませんので、IT予算の6割が企業価値向上への投資(バリューアップ投資)、4割がラン・ザ・ビジネスという割合に持っていきたいと考えています。絞るべきところは絞り、投資すべきところには大胆に投資する。その両軸で企業価値向上を目指しています。

桑野 非常に重要なポイントだと思います。予算を含めたリソースを確保できなければ、DXを通じた企業価値の向上は難しい。経営トップの理解が欠かせませんね。

則末 幸い当社の場合、社長の堀井(勇吾氏)が経営とIT・デジタルは一体だという考えを持っていますし、感度も非常に高い。そのため特に苦労することなく、トップの協力を得られています。

 つい先日も、社員に対し堀井から「今後AIエージェントのビジネス実装を進め、事業体質をより筋肉質にすると同時に、バリューアップを図っていこうと考えている」というメッセージが発せられました。

桑野 まさに私たちが目指している世界です。私たちはCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を通じて、月間10億ユニークユーザー(UU)の行動データを解析しています。大手ECサイトでだいたい6億UUですから、国内で最大級の行動データを解析していると言っていいと思います。

 そのデータを活かした顧客体験の最適化や新たな価値創出を加速させるために、顧客のコンテクスト(顧客行動の意図、背景、価値観などの文脈)を理解する新たなAIエージェント「コンテクストエージェント」の開発を進めているところです。コンテクストに基づく顧客体験のデザインや価値創造が、より高度なデータ活用のカギになると私たちは確信しています。

 ところで則末さんは、経営トップとコミュニケーションを図るうえで、どんな点に気をつけていますか。