かつては「新品か中古か」という選択軸で商品を検討されるお客様が多かったのですが、特に若い世代は「これがほしい」という気持ちがまずあり、それが新品か中古かは必ずしも重要ではない傾向にあります。私たちはこの変化を捉え、商品の持つ魅力をいかに最大限伝えるかに注力しています。自社で商品を製造しないからこそ、商品の魅力を伝えるためのていねいな説明や店舗体験のデザインには、徹底的にこだわっています。

諏訪弘樹
コメ兵
営業本部 営業企画統括部 部長

行動データと商品IDを結びつけ、“幸運な出会い”をデザイン

金井 そのような独自性と一貫性のある顧客体験を実現されるうえで、過去にはどのような課題があり、どう乗り越えてこられたのでしょうか。

諏訪 以前は、我々が大切にしてきた独自性を可視化できていませんでした。プレイドさんとご一緒して、まず「可視化できていないこと自体が課題だ」と認識できたことが、大きな一歩でしたね。当時はオンラインとオフラインの顧客体験をどうつなぐかという課題があり、その解決策の一つとして「お取り寄せ」サービスを構築しました。

 これは、ECサイトで見つけた商品を最寄りの店舗に取り寄せ、実物を確認してから購入を決められるサービスです。「KARTE」のデータ連携機能を活用して実装しました。

金井 私にとっては、KOMEHYO GINZA(東京・ 銀座店)でのデジタルサイネージの取り組みも強く印象に残っています。来店されたお客様が会員バーコードをかざすと、その方に合わせたレコメンド商品と、それに連動した花のメディアアートがサイネージに映し出される仕組みです。データとアートを融合させることで、新しい顧客体験を創出し、同時にコメ兵というブランドのアイデンティティをも表現できる。データ活用の新たな可能性を強く感じたプロジェクトでした。

金井良輔
プレイド
カスタマーサクセス 副本部長

諏訪 銀座店は大型店とはいえ、物理的な制約からすべての商品を店頭に並べることはできません。その課題をデジタルで解決できないか、というのが出発点でした。単にレコメンド商品を表示するだけでは面白くないので、広告代理店にもプロジェクトに参画してもらい、KARTEのデータとメディアアートを組み合わせるアイデアが生まれました。

金井 リユース事業ならではの難しさもありましたね。一次流通品と違い、商品SKU(最小管理単位)情報がメーカーから提供されるわけではありません。ブランドIDや商品IDに加え、買い取り時の鑑定情報といった独自の識別データを登録・管理し、さらにお客様の行動データとどう結びつけるか。これは大きな挑戦でした。しかし、逆に言えば、こうしたリッチなファーストパーティデータ(自社で収集した独自データ)があるからこそ、お客様と商品のセレンディピティ(予期せぬ幸運な出会い)を緻密にデザインできるのではないかと感じています。

諏訪 まさにそのセレンディピティこそが、私たちが提供したい「ワクワク感」の源泉です。店舗での接客を通じて感覚的には理解していましたが、KARTEを導入したことでデータとしてそれを可視化できました。

 たとえば、ECサイトでは毎日21時に新しく入荷した商品をいっせいに出品するのですが、その時間になると新入荷ページのアクセスが急増することがKARTEで確認できました。お客様は何かを検索してたどり着くのではなく、まず新入荷ページを訪れ、そこに並ぶ何百もの商品をじっくりとご覧になっている。この行動データは、私たちが信じてきた「宝探し」の楽しみが、コメ兵の重要な価値であることを明確に裏づけてくれました。