既存の評価指標とバランス・スコアカードの相違点

 今日のマネジャーは、評価指標が業績にもたらす影響を十分承知している。とはいえ、評価指標が戦略の実現に不可欠だとは考えていない。

 マネジャーは、業績を飛躍的に高めようと新戦略を打ち出し、革新的な生産プロセスを導入する。その一方で依然、ROIや売上高成長率、営業利益といった、これまで何十年間も使ってきた短期的な財務指標を利用し続けている。

 このようなマネジャーたちは、新たな目標、新たなプロセスを管理する、新たな評価指標の導入に後ろ向きである。そればかりか、旧い評価指標が新しい施策に適切かどうか、疑問すら抱いていない。しかし、能率的な評価指標は経営判断を下すプロセスにおいてやはり不可欠なのだ。

「バランス・スコアカード」(以下BSC)は、さまざまな戦略目標を首尾一貫した評価指標に落とし込む包括的なフレームワークとして機能する。このBSCは、製品、社内プロセス、顧客、市場開拓といった重要な領域にブレークスルーをもたらすマネジメント・システムであり、単なる評価指標以上の意味を持っている。

 このBSCによって、マネジャーには異なる4つの視点が備わることになり、これら4つの視点のなかにいろいろな評価指標を設定できる。BSCは、従来の財務指標に欠けていた、顧客、リエンジニアリング、企業変革や改善運動などの実績を測定し、かつ既存の評価指標を補完する。またBSCにおける評価指標は、伝統的に利用されてきた財務指標と、いくつかの重要な点で一線を画すものでもある。

 もちろん、すでに多くの企業が、地域ごと、あるいは部門ごとにその事業運営や在庫数を測定する評価指標を多数利用している。しかし、このような部分的に用いられる評価指標は、いずれもボトムアップによるものだったり、偶発的に生まれてきたりしたものである。

 しかし、BSCに設けられる評価指標は、組織の戦略目標や競争上の必要性に基づいて設定される。そして、4つの視点のなかから、限られた数だけ重要な指標を選択することで、社員たちをこの戦略的な評価指標に集中させていく。

 伝統的な財務指標は、前期に何が起こったかを教えてくれるが、マネジャーが来期にどうすれば業績を改善できるかまでは教えてくれない。しかし、BSCは、現在と将来の成功の基礎を築くことを目的としている。