サマリー:AI時代の到来により、企業は目指すべき価値創造の再定義を迫られている。プレイド主催のカンファレンス「X DIVE」では、第一線で活躍する変革リーダーたちのクロストークを通じて、この壮大なテーマを深掘りした。

プレイドが主催するカンファレンス「X DIVE」(クロスダイブ)が開催された。イベント全体のテーマは、「AI時代の価値創造を再定義する」。日々進化するAIの活用を目的化するのではなく、AIを通じていかに独自の価値を生み出すかが問われる時代である。本イベントは、企業が顧客や従業員から選ばれ続けるためには、不確実な環境下で変革を続ける姿勢こそが必要だとの問題意識が出発点となっている。BX(ビジネス・トランスフォーメーション)、CX(顧客体験)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、EX(従業員体験)といった多様な視点を交差させ、第一線で活躍する変革のリーダーたちとの共創的な対話を通じて、これからの企業経営のあり方を探究したイベントの内容を3回にわたってリポートする。

AIは社会と人間をどこまで変えるのか

 X DIVEの幕開けとなるオープニングキーノートセッションのテーマは、「人間とAIが共進化するには? 企業のテクノロジー活用を推進する未来を描く力」 。登壇者は、スマートフォンのマルチタッチ技術の基礎を築き、現在はヒューマンオーグメンテーション(人間拡張)研究をリードする東京大学教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェローの暦本純一氏 。そして、金融業界で長年テクノロジーとデータ活用を推進し、現在は東京海上ホールディングスのグループCDO(チーフデジタルオフィサー)として企業変革を牽引する生田目雅史氏だ。

 本セッションでは、生成AIが驚異的なスピードで進化する現代において、AIが生む「形式知」と人間ならではの「暗黙知」を融合させ、新たな価値を創造する「人間とAIの共進化」の可能性を探った。

 モデレーターの山口圭介氏(ダイヤモンド社メディア局 局長)が二人の登壇者に投げかけた最初の問いは、「AIは社会と人間をどこまで変えるのか」である。産業革命を上回るインパクトを持つともいわれるAI革命。その変化の規模と本質について、両氏の見解が示された。

 暦本氏は、迷いなく「AIは今後50年で、産業革命を超えるインパクトを社会にもたらす」と明言し、蒸気機関とニューラルネットワークのアナロジーを提示した。蒸気機関は発明当初、実用性が疑問視されていたが、ジェームス・ワットによる改良を経て、蒸気機関車や蒸気船といった社会を変革するアプリケーションを生み出し、近代工業化社会の基盤を築いた。人間の脳神経回路を模した機械学習モデルであるニューラルネットワークもまた、30年近く実用性が低いと見なされていた歴史を持つ。

「蒸気機関を見て、これを船や馬車に応用できると考えた人々の発想力は素晴らしいものです」。暦本氏はこのように述べ、技術そのものだけでなく、それを応用する人間の想像力の重要性を指摘する。つまり、「社会は大きく変化しても、人間の本質や根源的な価値観はそう大きく変わらない」と暦本氏は考える。

 AIの進化が特に大きな影響を及ぼす領域としては、「ホワイトカラーの仕事」を挙げた。

「この10年、20年で、社会や企業のマネジメントといったホワイトカラー領域は劇的に変わるでしょう」。大学教員である自身の立場からも、教育システムが根底から覆され、個人が主体的に学ぶ時代が到来するとの期待を語った。

 テクノロジーの急速な進化によって、働き方や組織の概念は大きく変わり、私たちはそれをどう受け止め、対峙するかが問われる。だからこそ、「AIと向き合い、そのパワーをどう享受するかを考えなければならない」と暦本氏は言う。

 一方、生田目氏もAIが社会に与えるインパクトの大きさに強く同意しつつ、独自の視点から2つの重要な論点を提示した。