AIは「優等生」、人間は「ポンコツ」でいい
議論の終盤は、AIと人間のこれからの役割分担へと話題が及んだ。AIが持つ力は、未来を描くことにどこまで貢献できるのか。
暦本氏は、現在のAIを「優等生」と評した。調査能力や即答性は極めて高いが、常識の範囲内の回答が多く、意外性や創造性に欠ける。そして、AIがハルシネーション(幻覚)を減らし、ますます完璧な優等生に近づくのであれば、「人間はむしろ、もっと『ポンコツ』になるべきなのかもしれません」と逆説的な提言を放った。
ここで言う「ポンコツ」とは、すべてをそつなくこなす優等生とは対照的に、知識や能力に偏りがあったとしても、特定の領域で突出した強みを持つ存在を指す。優等生の役割はAIが担ってくれるのだから、人間はみずからの得意分野や強い関心事に特化し、尖った存在となることで、より高い創造性を発揮できるのではないか。そうした「ポンコツ」集団こそが大きな総合力を発揮し、優等生であるAIをパートナーとして新たな未来を築いていくという考え方である。
生田目氏もまた、人間ならではの非連続的な飛躍の重要性を説く。「サッカーをやっていて『ボールを持って走るほうが面白い』という発想からラグビーが生まれ、ラグビーで後ろにしかパスを投げられないルールを、前に投げればスリルが増すという発想でアメリカンフットボールが生まれました」。この非連続性はAIからは生まれない。
既成概念やルールを超え、まったく新しい価値を創造する「突拍子のなさ」は、過去のデータから学習するAIにはけっしてできない芸当である。こうした人間ならではの力を核としながら、AIをどう活用していくか。その先に、目指すべき社会の姿があると生田目氏は語った。
変化を楽しみ、ビジョンを語る
最後に、両氏はオープニングキーノートセッションに参加したオーディエンスに向けて力強いメッセージを送った。
暦本氏は、産業革命を超える変化の時代を「楽しむマインド」が何よりも重要だと語った。「ジェットコースターのような激しい変化が常態となる時代において、それを楽しめるかどうかが人生観を大きく左右します。さらに、みずから変化をつくり出す側に回れば、その楽しみはいっそう深まるでしょう」。そして、「人類史上最も楽しい時代が到来している」と、この変革期をポジティブに捉えることを呼びかけた。
生田目氏は、既存の業務がAIに置き換えられていく時代だからこそ、「人間がどこで力を発揮するのか、自分はどんな存在でありたいのかという根源的な問いに向き合える。それを考え抜くことができるのが、人間の力ではないか」と述べた。そのためには、自分一人で考えにふけるだけでなく、「時には仲間と酒を酌み交わし、大いにビジョンを語り合うのもいい」と対面でのインフォーマルなコミュニケーションの重要性を説く。AIを先回りして「どんな社会をつくりたいか」を仲間と語り合う時間を共有する中にこそ、未来を創造するヒントが生まれるという同氏の確信が感じられた。
AIという強力な「知」のパートナーを得て、人間は計算や記憶といった役割から解放されつつある。その先に見えるのは、より創造的で、人間らしい喜びに満ちた未来なのかもしれない。今回のオープニングキーノートは、AI時代の価値創造の核心が、最先端技術の追求だけでなく、「楽しむ力」「共感する力」「問いを立てる力」、そして「ビジョンを語る力」といった人間の根源的な力にあることを強く示唆するセッションとなった。
オープニングキーノート後、暦本氏と生田目氏は別会場で開催された経営層向け招待制プログラム「X DIVE Executive Roundtable」にも登壇。参加は30社を超え、「AIで変わる経営の未来」をテーマに参加者同士のオープンな議論が交わされたことも付記しておく。
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